第十話・次の嵐の予感・




「・・・で、さっきのが“虎牙破斬”と“獅子戦吼”・・・でいいんだな」
「ああ、このへんが基本的な技かな」


クレスとの修行の休憩時間に、先ほど見せてもらった技の名前を確認する。

流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、先刻の手合わせを思い出した。


初めての手合わせに粘ってはみたものの、シュネィヴァは負けた。
“次元斬”や“空間翔転移”という見たことのない技―「時空剣技」というものの威力に圧倒されてしまい、自分のペースを保てなかったのが、一番の敗因だろう。


「・・・まだまだだなぁ」
「そうかい?僕はそうは思わないよ。
先に流れを作れたからだけど、下手したら教える側の僕が負けてたと思うし」
「まさか・・・買い被りすぎだよ」

「本当だよ。シュネィヴァは力もあるし隙も小さい。
誰からその剣技を?」


クレスからの質問に小さく目を伏せる。
反射的なその動きをクレスに見られたかと思い、シュネィヴァは内心焦るが、彼はそれに気づいていないようで、安心する。


「・・・半分我流だ・・・基礎は、うちのダグザに倣った」

「ダグザさん・・・は、確か「ティルータ」の副船長だよね?」


頷き、もう一度汗を拭う。
そして、二人がいる場からさほど離れていない浜辺を見た。
そこにはバンエルティア号とティルータ号が並んでいる。

現在、一行はとある未開拓の孤島に居た。
それは、大きい理由で姫祇が興味を示したこと。小さい理由で、シュネィヴァ達の仕事のためだ。



「そういえば、君の船の人達は大丈夫なのかい?島の奥に入ってから随分立つけど」


頭上の太陽を見上げながら、クレスが訪ねてくる。
シュネィヴァも太陽の位置で時間を確認しつつ、答えた。


「大体二時間か・・・まぁ未開拓だから、最低でも三人で行動しろと言ってあるし・・・魔物に遭遇しても深追いはしないだろうから・・・腹が減った頃には戻るだろうな」

「・・・結構いい加減なんだね」
「拘束しすぎたら息が詰まるだろう。それに仕事と言っても、こっちは嫌々だしな」



シュネィヴァのティルータ号や、マリカの所属するファテシア号が航海するには一つの条件がある。

それが「各船の航海許可の代わりに、国からの命じられる仕事を行うこと」。

元々そんな決まりはなかったが、数年前に「義務教育」と同時に作られた法によりそうなった。

とはいえ、突然の変更にどこの船からも国に対し不満は起きた。
しかし、国はそれを力付くで抑えるための脅し文句を作った。それが「従わない場合はその船を「海賊船」と見なし、攻撃する」というもの。

まさか、船一隻で国を相手にするわけにもいかず、かといって船同士で力を合わせて反乱することもなく、殆どの船が今では国の言いなりなのだ。

そして、法に従いティルータ号に与えられた仕事は「魔物の分布調査と討伐」。

今いる島も開拓に先駆け魔物の分布調査、ついでに開拓者の安全の為に、前もって危険な魔物の討伐をしている。

・・・国のために、アイツの命令で。


「・・・・・・」
「どうしたんだいシュネィヴァ・・・随分険しい表情をしてるけど・・・?」
「気にするな・・・思い出してムカついただけだ・・・。
さぁ、そろそろ再開しようぜ?」


気分を変えるために、ぐいぃと伸びをしてクレスに向き直る。



その時、遠くから聞き慣れた声がした。



「・・・・・・りょー・・・。」


「ん?何の声だろう?」
「ああ、うちの奴が帰ってきたんだよ。何か見つけて帰ってきたんだろ」

そう言って船員がこちらに来るのを待つ。

徐々に近づいてくる足音。


「・・・・・・?大分騒がしいな」

その慌ただしさに若干違和感を感じて、彼等が入った森の方へ目を向ける。


「・・・りょう・・・!・・・頭領!」

「リーツ、ホグ、爽(さや)か・・・」


息を切らし、地面に膝をつく船員に急いで駆け寄る。
素早く視認したところ、怪我はないようだが大分疲弊している。


「何事だ、バットの大群か?それともネコントの群れか?」

「ちちち・・・違ぇですよ頭領・・・ゼィゼィ・・・ぅが」

顔が長いのが特徴なリーツが、息絶え絶えに否定を示す。
息切れで二の句が次げず、代わりに爽が口を開いた。


「り・・・竜が・・・竜がいたんです頭領・・・!」
「竜だぁ?そりゃ確かなのか?」
「・・・!・・・!!」

どうも驚きのせいで声がでないホグが何度も頷く。
三人の青ざめた顔が真実であることを物語っていた。



「・・・悪いクレス、稽古はまたの機会に頼む」
「シュネィヴァ?」


驚いたような顔で見つめてくるクレスに、もう見向きもせず、シュネィヴァは船の方に体を向けた。


「ダグザァ!合図だ!
全員を船に戻せ!!」



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