第六話・若き頭領の受難・
「おっ帰りなさ〜い姫〜!」
「ただいま〜ミナカ〜!」
正午過ぎのバンエルティア号の甲板
シュネィヴァと姫祇はミナカに笑顔で迎えられた
少し離れたところでカノンノも手を振っていたのでシュネィヴァも小さく手を上げて応える
校内でナイチンゲールとの睨み合い後、微妙な空気のまま二人は帰路を喋ることなく歩いてきたためシュネィヴァは姫祇に対し申し訳無い気持ちで一杯だったが、ミナカが気持ち良く迎えてくれたお陰でその空気も拭い去られ僅かながらホッとした
そして思う
自分はまだまだ未熟な子供だと
「そういえばシュネィヴァ、さっき貴方の船の皆が中に入ってくれてね」
「・・・なに?」
自責の念に埋もれていたところにかけられた言葉に一瞬、思考がフリーズした
「すまんカノンノ、今・・・なんて・・・」
「えっと・・・「ティルータ」の人達をバンエルティアの中にお迎えして・・・」
説明の途中、甲板が波で僅かに揺れた
このバンエルティア号、どういう原理かそこいらの船と違い大きな波がたっても船自体は然程揺れない
とても快適な船内なのだがそこにあの船員である
案の定、揺れの直後に足下から細やかに悲鳴が漏れてきた
そのくぐもった音にミナカと姫祇も首を捻る
「・・・・・・」
「あの・・・シュネィヴァ?」
「・・・悪い、三人とも
今から少し甲板を借りるぞ」
そう呟くように発してからシュネィヴァはツカツカと船の入り口へ
姿が見えなくなって直ぐ、三人の足下から先程とは比べようにならない怒声が響いてきた
「・・・はぁ」
「あんまり溜め息を吐くと幸せが逃げるよ?」
「・・・そして俺に苦労と言う名の不幸が増えるんだよな」
「いや、そういう訳じゃ・・・」
シュネィヴァが船内に入ると期待を裏切らず船員達は人目も何のそのでパニックになっていた
それを一喝した後甲板で反省として全員に正座、おまけに昨日戦いで帳消しされた「港を三十往復」を命じ船員をぼっとんぼっとん海へ蹴り落として現在、シュネィヴァは盛大な溜め息を吐いていた
そして俯いて座り込むシュネィヴァをなんとか励まそうと金髪の少年―カイルがあーだこーだと必死になっている
『何て言うか・・・普段と戦闘時のギャップが激しいわよね〜』
『あんなんでよく船乗りが出来るな・・・転職した方がいいんじゃねぇのか?』
「・・・はぁ」
「シュネィヴァ!元気だそう!やっぱり元気が一番だよっ!」
ホールの隅から聞こえる男女の小さな話し声に再びシュネィヴァが嘆息
なんかもう無我夢中で励ますカイルの姿が健気だ
「シュネィヴァさん元気ないの?」
突然俯く視界に小さな顔が目一杯に入ってくる
「ぉうわっ!?」
本日二回目の悲鳴と共にシュネィヴァは思いっきり後方へ仰け反った
背筋が真っ直ぐになったシュネィヴァの眼前には前回同様、姫祇が今度は不安気な顔でこちらを見ていた
まったくもってこの子供は心臓に悪い
「・・・驚かすな姫祇」
「驚かしてないもん!」
「いや、十分ドッキリだ、」
「すごいや若っ!一瞬でシュネィヴァを元気にするなんて!」
「え?い「すごい?私すごかった?やったぁ!」
「本当にやったね若!」
イェイ!ぱちーん!と気持ちのいい音で無邪気×2が嬉しそうに踊りだす
「・・・なんかもういいや」
愉快に踊る二人を見てシュネィヴァはぽつりと呟いた
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