序章・爽やかな汗と共に・
「・・・ふぅ」
深く息を吐いて腰を低く落とす
腰に下げた愛剣の柄を握る手に力を込めて眼前にそびえ立つ木を睨んだ
もう一度息を整えて気を集めるよう集中する
そして全身を使って力一杯その気を放った
「魔神剣!!」
抜き放たれた剣の先から一閃の衝撃波が地面の上を勢いよく走る
一直線に放たれた衝撃波はそのまま木にぶつかり派手な音をと共に大きくそれを揺らした
数枚の葉がひらひらと足元に落ちるのを目で追う
暫くして辺りが落ち着くと同時にパチパチと小さな手拍子が背後から響いてきた
「やったじゃないか!上出来だよ」
「クレスさん」
「ははは、クレスでいいよシュネィヴァ」
にこりと笑って歩み寄ってくるのはアドリビドムのメンバーの一人であるクレス・アルベイン
今シュネィヴァは彼に剣の稽古をつけてもらっている最中だ
「どうだい?コツは掴めたかな?」
「まぁ・・・大体は
クレスはいつもこうやって修行してるのか?」
「あぁ、向こうの村にいた時は門弟の人達とね
アドリビドムに入ってからはスタンやロイドとよくやってるよ」
「へぇ」
なんでも彼は故郷の村の剣術道場の一人息子らしく幼少から剣に携わってきたらしい
シュネィヴァも敗けを劣らず幼少より剣は握っているものの殆どが我流でこうやってしっかりと教わったりした経験はない
今教わった「魔神剣」だって聞けばアルベイン流剣術の基本技らしい
まだまだ序の口だ
「いやぁでも驚いたよ!こんなに直ぐ習得するなんて、シュネィヴァは飲み込みが早いんだね!」
「いや、クレスの教え方が上手いんだよ
分かりやすいし、お陰で早く手応えが掴めた」
「いいや、やっぱりキミに才能があるんだと思うよ
僕の教え方なんてまだまださ」
自らは謙遜し相手を誉めるとは・・・物腰柔らかなところといい、できる男だ
自分とあまり歳が離れてもいないクレスに尊敬の眼差しを送りつつシュネィヴァは心の中で数回頷いた
「さ、てと・・・続きを始めようか」
「あぁ、よろしく頼みます」
気持ちを切り替えてまた剣を構える
クレスとの稽古が始まって一時間程、シュネィヴァ以外もそれぞれが己の修行に励んでいた
マリカは自分と同じく短剣を使い身軽さを売りとするトレジャーハンターのルーティに指導してもらっている
別れ際に彼女が「一ガルドを笑うものは一ガルドに泣く、よ!」とちょっと変な心構えを最初にレクチャーしてもらっていたことは気にしない
チィリカの方は紅色ディセンダーことあのレクに魔術を教わるそうだ
最初聞いた時意外だったが、マリカとチィリカによるとレクはあの日の巨大な魔物のトドメに派手な術を使っていたらしい
腕は確かなんだろう
そういえばレクに限らず「ディセンダー」の肩書きを持つものは皆一様に何かに長けていて戦いにおいて器用だ
ミナカはでかい斧ブンブン振り回すだけじゃなく短剣も扱うし
レクは魔術のみならず治癒術、更に弓まで使うし
キルは剣なら二刀でもイケるクチだし
テュリなんて大剣だけじゃなく肉弾戦も得意らしい
数人が束になっても彼等にはなかなか勝てないとアドリビドムの皆が口を揃えて言うほど全員一目置かれている
実はテュリに「今度手合わせしようよ」なんて言われてたりするんだが正直な話恐ろしくて堪らない
『考えてみると・・・今までと掛け離れた生活だよなぁ』
稽古の合間にそんなことを思う
「ティルータ」を離れ、このバンエルティア号で過ごすようになって数日がたったが、初めは驚きと発見の連続だった
姫祇のことも・・・
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