第二十三話・勇む我は頭領なり・


「んだぁてめぇら?まだ三十往復終わってねぇだろ!!さっさと行ってこ・・・」
「海洋凄の魔物の群れ!数およそ四十!こっちに向かって旋回中ッス!!」

「魔物・・・?」

シュネィヴァの目付きがスッと変わる
荒ぶっていた感情が一気に落ち着きを払ったものに

対しダグザによる報告にシュネィヴァの脇にいたチャットは魔物の単語に意気込み出す

「魔物!魔物の群れですって?!それは大変です!ファラさん大砲の用意です、迎撃を・・・」
「船長さん」

「・・・?シュネィヴァ?」

きびきびと指示を出そうとするチャットを何故かシュネィヴァは制する
チャットは船長と呼ばれたことと止められたことの二重の驚愕でシュネィヴァを見上げた
その場がシーンと静まり返る


「あんたらまだここの地理に不馴れだろ?この場はちょっとこっちの顔を立たせてくれないか?」

「え・・・?あ、でも」
「なに、船にかすり傷も付けさせねぇからよ」

そう言ってチャットの肩を一つ叩くとシュネィヴァはまだずぶ濡れの自分の手下達に向き直った
その瞳に静かな光を湛えながら


「お前ら・・・敵の姿は確認したのか?」

「は・・・?はいッス・・・」

「つまりてめぇらは敵に背を向けたわけか」


船員の顔が凍りつく
けれどシュネィヴァはあくまで冷静な顔でそれを見ていた


「ダグザ、「敵前逃亡」ってどういう意味だった?」

「・・・己の恥」

「だろう?そうだよな?」

予想通りの言葉に満足そうに数回頷いてからシュネィヴァは唇の端をニヤリを上げる
子供のような無邪気さと、大人のような風格を混ぜた笑み


「・・・お前らは何の為に大海を漂う道を選んだ?てめぇらが親父に、「ティルータ」に求めたもんは何だ?毎日の甘っちょろい航海のため?
違うだろう!てめぇらが求めたもんは敵だ!血脇踊る戦闘だろう!!尻込みしてんじゃねぇぞコラァ!!」

「「「うおおぉぉぉっ!!!」」」


拳を天に高く掲げるシュネィヴァに続くように沸き上がる歓声
獲物を求めるかのように眼光が鋭くなっていく船員達
今まで数センチの波に怯えていた姿など微塵も感じさせない


「武器をとれてめぇら!存分に暴れてこい!!」

「「「うおおぉぉぉぉっっ!!!」」」


「やってやるぜ!」「ひゃっは!久々のバトルだぁ!」「目にもン見せてやる」


『あの・・・マリカさん、あれ本当にさっきまで罰を受けてた人達ですか?』
「うん、そだよ?」

ドカドカと騒々しい音を立てて迎え撃つ準備を始める船員を見てチャットが訝しげにマリカに尋ねてくるが聞かれた方は涼しい顔
どうやら慣れっこらしい

因みに今まで「ティルータ」船員と接点がなかったチィリカはあまりの豹変ぶりに軽く、怯えていた


「さぁて!マリカも行こうかな!準備万端!快調快調ー!」

「・・・マリカ?でもシュネィヴァは顔を立たせてくれと・・・」

「バンエルティア号の皆に言ったんだよ!「ファテシア」号船長輔佐のマリカさんには関係ないもんね!
それにしっかりお勉強もさせてもらわなきゃ!目指せ船長ー!」

とうっという掛け声と共にマリカはシュネィヴァ達の元へ駆け寄っていく
チィリカもそれを見て何を決めたのか愛用の杖を握り締めマリカを追いかけていった




水飛沫と男の怒声が響き渡る海上
バンエルティア号の甲板ではギルドメンバーがその様子を見ていた

マリカは船員に混じって機敏に動いて敵の虚を付きながらじわじわと追い詰めている

チィリカは彼等から離れた安全圏内で魔術を使ってサポートしていた

そしてシュネィヴァは最前線で敵を削りながら絶えず暴れる船員達に指示を出していた
息をつく暇もないだろう戦闘、しかしシュネィヴァの顔は晴れ晴れとしている

また愛刀で一閃、敵が崩れ落ちる



「シュネィヴァさんが・・・守りたいもの・・・」


最後の一匹を凪ぎ払ったと同時に船員達が歓喜の声をあげる
ギルドメンバーはそれを見計らって治療をしようと数人が彼らの元へ動き出した


「皆に・・・届くといいな」


汗だくになりながらもギルドによる善意の治療をスムーズにするために再び指示を飛ばす
そんなシュネィヴァの曇りない表情を小さな世界樹は見つめていた

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