第二十二話・お怒りは雷の如し・
バンエルティア号甲板
日が傾きつつある午後のその場所に異様な光景は広がっていた
まず、船の入り口に背を向けるようにして誰かが仁王立ちになっている
その姿は威厳こそあれどまだ細い
しかしその誰かの眼前、船の入り口に向かって数十人の男(しかも全員ガタイの良い大人)達がまさかの正座で体を縮こまらせ情けなく座っている
なんというか・・・とてもシュールな光景に入り口付近に集まるバンエルティア号船員もといギルドメンバーの皆さんはその様子を見守っていた
「ダグザ・・・」
「ういッス・・・」
「留守中の船と船員はてめぇに任せたはずだよな?」
「一語一句、間違いはねぇッス」
仁王立ちはハァーと大きく息を吐く
それだけで正座軍団はひいぃとガタガタ震えだした
「・・・砲弾を構えたのはどいつだ?」
「頭領!それは豪(ゴウ)の奴が!」
「ちげぇ!緩く縛ったサギサが・・・」
「うだうだ言わねぇで黙って手を挙げろ!!」
言い争いを一喝
暫くするとソロソロと数人の手が力なく挙がる
「豪にサギサにボトムにヨーグ・・・てめぇらで間違いはねぇな?」
「「・・・(こくこく)」」
「・・・で?波でギャースカ・・・いや一言でも騒いだ奴は?大人しく手を挙げろ・・・」
今の一言に全員の手が挙がる
頭領のこめかみがピクピクと動き口の端が上がる
「事情はよぉ〜く分かった・・・・・・
てめぇら全員港の海を十往復してきやがれっ!!!」
「「「と、頭領ぉ〜〜!!」」」
「ティルータ」号頭領シュネィヴァの一言に船員全員の悲鳴が木霊した
「そりゃねぇッス頭領!」
「俺、本当に一言アッて言っちゃっただけなんだす!」
「十往復はきついッス頭領!」
「ええいやかましっ!今口答えした奴はプラス二十往復だ!!」
「「おっ、鬼ぃ〜〜!!」」
「さっさと行け!このウスノロ共!!」
おりゃおりゃとシュネィヴァが半ば蹴落とし、船員達は海に次々と落ちていく
あんなにボトボト落として大丈夫かとチィリカ+ギルドメンバー一同(一部除く)は不安になったが、流石は海の男
しっかり泳いで真面目に往復の罰を償い出した
「いやぁ〜はっは、随分と面白い部下をお持ちのようですねシュネィヴァ?」
「ジェイド・・・今のはお前でも張り倒すぞ・・・」
驚いたギルドメンバーから除かれた一人、ジェイドは楽しそうに眼鏡を光らせ茶化を入れるがシュネィヴァのあまりの眼光の鋭さに閉口した
「にしても、おじさん達相変わらずだね」
事情を知るマリカは一人苦笑い
現在のシュネィヴァの心境を察してとても笑える状況じゃないのだろう
「うわーすごーい」とはしゃぐ若木を除いてその場は完全に凍り付いていた
「それにしても、騒がしい方々でしたね」
チャットがそう文句を垂れるとそれに反応してシュネィヴァが項垂れた
「・・・はぁ、すまない騒がせて・・・あいつらに変わって謝る・・・すまん」
「や・・・いえ、貴方が指示したわけでも有りませんし・・・別に謝らなくとも・・・」
「でも謝らせてくれ・・・すまん」
「ど、どうもご丁寧に・・・」
「んぅー?どうしてシュネィヴァさん元気ないの?」
一人のんきな若木は重苦しい雰囲気の中で首を傾げていた
「・・・それに、しても・・・シュネィヴァは・・・失礼ですけど本当に・・・船長だったんですね」
おずおずとした調子でチィリカ言う
シュネィヴァには見えていないが野次馬をしてるギルドの皆さんはその言葉にうんうんと頷いていたりした
「・・・そんなに意外だったか?」
「・・・少しだけ」
「まぁ・・・確かに珍しいかもしれないが、どう見たって年下のチャットですら船長やれるんだ
驚くほどのことでもない」
ほぅと頷くチィリカ
隣で「何ですか!どういう意味ですかソレ!」と文句が聞こえたが華麗にスルーした
「それに・・・頭領って肩書きは親父から受け継いだものだしな・・・」
「え・・・?」
寂しげなシュネィヴァの呟きにチィリカが耳を疑ったのとそれは同時だった
「「「頭領!!」」」
ザッパァアン!という派手な飛沫の音
複数人から成る低重音の叫びと共にさっきシュネィヴァによって海に蹴り落とされた「ティルータ」船員達がまるで地面から湧くゾンビのようにわらわらと甲板に上がってきた
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