第二十一話・響き渡った絶叫・


「・・・参ったよなぁ本当に」

「「・・・・・・」」

「ん?ん?皆どうしたの?」


潮風が撫でる甲板でシュネィヴァは溜め息を吐き、マリカとチィリカは顔を伏せ、若木は一人三人のそんな様子に首を傾げている


ジェイドの提案は要約するとこうだ
「この船に乗って暫く若木と一緒にいろ」
船に乗ってのくだりは想像だがあの眼差しはどう考えたって傍を離れないで下さいよ?という意味合いも含んでいた


「はぁ・・・船長に何て言おうかなぁ・・・」
「・・・両親に・・・何と説明すれば・・・」

マリカとチィリカは同じタイミングで似たような悩みを吐露した
シュネィヴァの悩みも似たようなものである

自分は「ティルータ」号の船長なのだ
仮に「バンエルティア」号で生活をするとなると、自分の船そして「ティルータ」の船員達とは暫く会えないことになる
いや、会うことは出来るが今までのように毎日航海をすることはほぼ不可能
マリカの悩みも似たものだろう
チィリカだって航海をしなくとも両親との生活がある
即決は難しい
かといってここまで聞いておいてハイさよならなんて後味が悪すぎる
関わったのならせめて最後まで付き合うのが道理だ


「本当に厄介事を持ち込んでくれたな姫祇」

ポンと彼の頭に手を置きぐしゃぐしゃとこねくり回す
数秒でボサボサ頭の完成だ


「うーんと、シュネィヴァさん達はこの船がイヤ?」

ぐしゃぐしゃになった髪を直しながら若木が聞いてくる
その目は僅かに沈んでいた


「嫌いなわけじゃない、ただこったにも事情があるってことだよ」

「ふーん」

シュネィヴァの答えに髪を直し終わった若木は足をプラプラさせる
その行動は本当に子供がするもので、それは彼が本当に産まれたばかりであることを思わせた



「・・・僕は皆と一緒がいいなぁ・・・」

という今にも消え入りそうな願望を吐き出した
その瞬間だった



「姫っ!早く船の中に入って!!」

騒々しい音を立てて慌てながら現れたのは先程シュネィヴァが会った桃色の髪の少女―カノンノだった


「??どうかしたの?」
マリカの問い掛けに一瞬、迷ったがカノンノは直ぐ全員に説明をしだした


「さっき操舵室にいるキールがこっちに一隻の船が近付いてるって知らせてくれたの」

「船が近づいただけでそんなに慌てることないんじゃないか?
この港にくる船なんて限られてるし」

「そうなんだけど、話によるとその船は砲撃準備が出来てる状態で近づいているらしいの」

「何だって!?」

カノンノの言葉にシュネィヴァは目を見開き彼女に詰め寄った
マリカも隣で驚いたように口を開けている

この町は国直属の軍艦船がよく立ち寄ることで有名であり、殆どの海賊船は近寄ることなく町を通過する
よってこの港町で砲撃しようとするなど余程の手練れか大馬鹿者だけだ、尤も統一国家による統率が始まって以来そんな事件は一度も聞かれたことはない

シュネィヴァ達の取り乱しようによっぽどの事だと判断したのだろう
カノンノは若木の腕を引き船内に入るよう促す

しかし若木は動かない

「・・・姫祇?・・・早く入りましょう・・・」

「うーんー・・・」

チィリカの言葉にも若木は渋る
仕方なくシュネィヴァが彼の背中を押そうとしたが


「あ!船ってもしかしてアレ?」

と若木が水平線を指差す
見れば一隻の船がゆっくりと此方に近づいているのが見てとれた


「わわっ!ホラ姫早く!」

「・・・姫祇・・・・・・?」


急かす二人に、しかし若木は動かない
ついでにシュネィヴァとマリカも動きを止め船の方を凝視している

「・・・マリカ?・・・シュネィヴァ?」

チィリカの呼び掛けにも無言、二人は目線を外さぬまま甲板の端へと移動する
それに付いていく若木
慌てるカノンノとチィリカ

「・・・どう、したんですか?」


「ねぇねぇシュネィヴァ」

珍しく神妙な面持ちで口を開くマリカ
シュネィヴァはとても小さな声で「何だ」と返事をする


「シュネィヴァの「ティルータ」号って、中型船だよね?」

「・・・あぁ」

「それに装甲が確か黒っぽかったよね?」

「・・・あ、ぁ」

「あの船、中型だし黒っぽいよ?」

「・・・・・・」


「あ?何か話声が聞こえるよ?」

カノンノの言葉に一同は一斉に耳を澄ませた
風に乗って聞こえてくるのは男達の野太い声
しかしそのどれもが
『ぎゃあ!波がぁ!』
『ひいぃ!縄がほどけたッス!』
『『頭領〜!!』』
と情けない言葉を連発している
因みに波は数センチも立っていない


「最後に聞くけど、「ティルータ」って船員皆男の人だよね?」

「・・・・・・・・・」

「・・・あの声皆聞き覚えがあるんだけど?」

「ばかどもがああぁあぁぁっっ!!!!」


「ティルータ」号船員への頭領シュネィヴァによる絶叫が穏やかな海に響き渡った



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