第十五話・違和感の若君・



「今すぐに信じてくれなくてもいい、だけど若の事はこの世界の問題だから君達に知っておいてもらいたかったんだ」


困惑した三人に向かってテュリがそう言った

「この世界の」という部分に強く後ろ髪を引かれた
「エクティラ」という国家に抱かれた自分達に伝わる情報は少ない
かといって知らないままでいられる程子供でもない

そんな矛盾が胸で渦巻き、事実の受け入れを妨げている
そんな気持ちを抱えたまま沈黙が続く



「まぁ、考えてもしょうがないね」

最初に沈黙を破ったのはマリカだった
お気楽で緊張感のない声が何故かシュネィヴァの気持ちを軽くさせる


「・・・それもそうか、所詮船乗りの俺達に難しい話は分からないってか」

「そうそう!難しいことは頭のいい人が考えるものだよ!わたし達はわたし達に出来る範囲でやってありのままを受け入れよう!」

「・・・ありのままを・・・マリカ、貴方は・・・時々いいことを言います」

「時々って酷い!?でもいいこと言ったでしょ!でしょ!」


はしゃぐマリカを見てシュネィヴァとチィリカも笑顔になる

自分達の出来る範囲で

背伸びはいつかボロが出る
なら少しずつ少しずつ、確実な道をとった方がいいに決まってる
難しいのなら地道にゆけばいい

ありのままを受け入れよう

理解はちょっとずつしていけばいいから


「ふっへへ〜一件落着だね〜、あ〜スッキリした〜!じゃあそんなわけでこれからも宜しくね姫祇!」

「・・・だから若なの」

「?そういえば結局なんなんだ?姫だの若だのって」

暴れはしなくなったが依然、頬を膨らませ不機嫌な姫祇(?)を指差しシュネィヴァが尋ねる
もはや説明担当とも言えるテュリは頬掻きながら「あぁ」と呟きを漏らした


「えっとね・・・若にはね・・・両方の性別を持ってるんだよ」

「「「は?」」」

予想外の言葉に三人同時に固まる


「つまり・・・若は女の子であると同時に男の子でもあって・・・それが別々の人格を形成してるんだ」

「「「ハァッ?!」」」
びっくりカミングアウトに全員が一斉に姫祇(?)を見た
未だぷりぷりと頬を膨らませている
テュリが説明を続ける


「だからね?君達が普段学校で会っている女の子が本人が「姫」と呼んでいる人格で・・・
今ここにいる男の子が本人が「若」と呼んでいる人格なんだよ」


「「「・・・・・・」」」

見つめられていることを不思議に思ったのか姫・・・若は怒りを忘れ首を傾げた
シュネィヴァがおそるおそる口を開く


「なぁ姫、じゃなくて・・・若」

「なぁに?シュネィヴァさん」


「・・・お前・・・本当に・・・・・・男?」

「うん!そうだよ!」

少女もとい少年はにっこりと笑って腰に抱きついてきた
姫祇は元々見るからにしてまな板であったが、男である若を知った今、押し付けられているそのまな板が硬度を増した気になってくる


「あっ!若で会うの初めてなんだから自己紹介した方がいいんじゃない?」

「あっ!そっか!」

え?今更
そう思うが声に出ず、腰から離れた若は三人に向かってぺこりとお辞儀をした

「はじめまして!若木(わかぎ)です!これからよろしくお願いします!」

「・・・はぁ」

目の前で改めて自己紹介してくれた少年に対して返事とも溜め息ともつかない声がもれる

初めまして、初めましてか・・・

だから声が低いのか

だから最初に違和感を感じたのか


同一人物であれ、性別の違いは大きな違い

何故か胸の内によくわからない感情が生まれるのをシュネィヴァは心の片隅で感じた


「・・・それで・・・今後彼女・・・いえ、彼を呼ぶにはどうしたらいいんですか・・・?」

チィリカの質問にキルが「ん〜」と首を捻った


「別に・・・・・・
どっちでもいいんじゃない?ボクはいつでも「姫」って呼んでるし〜、ねぇミナカ」

「うん!女の子は皆「姫」って呼ぶよ!
「若」って呼ぶのは男の子達だよねれっくん?」

「おぅ、つまりどっちでもいい!簡単な結論だな」


「えっ?えっ?じゃあ今まで散々こだわってたのはなんだったの?」

狼狽えるマリカにテュリが申し訳なさそうに囁く


「ただの・・・若の我が儘・・・かな?」

「なんだそりゃ〜〜〜!!」


落胆するマリカ
チィリカもどことなくお疲れのようだ


「???皆どうしたの?」

一人状況を理解していない若木はマリカとチィリカを交互に見て首を傾げている



「なぁ・・・若木?」

「何?シュネィヴァさん?」


「お前のことを・・・別に「姫祇」と呼んでも構わないか?」

「うんいいよ〜」


今までのこだわりも忘れて、ニコニコと笑う若木を見て、シュネィヴァも大きく肩を落とした




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