ライン

彼がいる夢


アスラ―――

それは荒ぶ闘神の名
それは強き賢神の名
それは統べる覇王の名

そして――
僕に途を示してくれた男(ひと)の名前―――




憧れてたんだ

数多の敵を平伏させる強さに
多くの者から信頼される人望に
何より、己の大切な女性(ひと)を守り抜ける勇敢さに


最初は見ていた

いつの間にか一つになって

僕は彼自身なのだと漠然と考えていた



だけど違ったんだ


ねぇ人は弱いねアスラ

大切なものに、失ってからじゃないと気付けないんだ

それに直ぐ立ち止まってしまう


どうすればいいのかな?

立ち止まりたくないんだ
でも歩くのが辛くて座り込みたくなってしまう



「どうすればいいのかな?」


『ならば助力を請えばいい』
「えっ?」

彼の答えに僕は驚いて眼前の魔神を見つめた


『助けを求めればいいのだ
己の周りに仲間がいることをお前は知っているではないか
どうしてもというならば仲間を頼ればいい』
「でも・・・」


強くありたいんだ

仲間の助けであれるように強く
そう正直に漏らせば自分を見つめる紅い眼光が和らいだ


『ならばお前は何故仲間を助けたいと思う』
「え?えっと・・・それは、いつも迷惑をかけてしまうから・・・」
『だからこそ、だ
お前が仲間に尽くすならば仲間もお前のために尽くしてくれるだろう、お前と同じように』


違うか?と投げ掛けられた声色は外見から想像がつかないほど優しい
まるで、彼があの女性に見せる時のような表情


受け取った言葉で安心感が心を満たしていく

眼を閉じて一度深呼吸をして、瞼を開く

赤と翠がぶつかり合った



「・・・僕はいつも君に助けてもらってばかりだね」

下手くそな笑顔を彼に向けると大きな掌がくしゃりと頭を撫でた
それが無償にくすぐったくて何だか恥ずかしい


『それでいい
誰かに頼れることもまた、今までの絆の証なのだから』


彼の双眸が僅かに陰ったと同時に僕は彼の心情を理解した

今度は僕が彼に手を差しのべる


「アスラ・・・寂しいの・・・?」


彼の眼が一瞬、驚愕に見開かれたが、すぐなんともない風に眼を細めると急に僕の体を宙に持ち上げた

僕はひゃあっ!となんとも情けない悲鳴をあげされるがままに肩車の体勢に乗せられる


「・・・なに?これ」
『いやなに、まさか人の子に心を読まれると思いもしなかったのでな』
「・・・答えになってない気がするけど?」

でもいつもと全く違う高い目線に変な感動を覚えてたりする



『・・・独りは寂しいよ』

不意の独白に驚きながらどこかで冷静な自分は彼の言葉にしっかり耳を傾ける


『信頼が偽りであること以上に哀しく、虚しいものはない・・・俺がどんなに強く見えようが、孤独は寂しいのだ』


呟くような言葉を聞きながら僕は思っていた
やはり、と

知っていたから
彼が最期に想った気持ち
分かっていたから
滲む寂しさがより強く伝わってくる


嗚呼、分かったよ


「・・・ありがとう」

小さく言えば彼は僕を静かに降ろす
遠くなった目線
だけどもう見なくても全てが手にとるように分かる


だって彼は、かつての僕だもの


小さく笑ってから僕はゆっくりと歩き出す

道は分かっている
だって彼が親切に示してくれたのだから


『・・・迷わず、我が途を進めばいい』
「うん、ありがとう」


一度だけ振り返って彼に手を振った
ありがとう


『さぁ、行くがいい・・・ルカ』


ありがとうアスラ、僕の魂に受け継がれた想い―――





「ルカっ!!」

半ば怒鳴りに近い声に意識を覚醒させる
視線の先には夢の中の人より大きく丸い紅色の瞳


「全く!いつまで寝てるのよ!そんなんじゃいつか目ん玉が溶けるわよ!このおたんこルカ!!」
「ご、ごめ・・・ん」

少女特有の高い声に気圧され反射的に謝罪を口にしてしまい、すぐ口を塞ぐがもう遅い

バフンッ!と気持ちの良い音と共に顔面にクッションを投げつけられ勢いでその場に倒れ込む

投げた本人はフンッと鼻を鳴らしてどかっとルカの隣に座った


また、機嫌を損ねてしまった

人知れず溜め息を吐いてルカは少女の横顔を見た

凛々しい整った面差しに無意識で心拍数が上がる
でも、知ってる
彼女の強さは弱さと紙一重なのだと
誰よりも心優しいから、傷つきやすいから


隣にいたいと思う

彼があの女性を護りたいと思ったように
僕は彼女と共にありたい

ねぇ、これは必然じゃなくて偶然だよ

本当に偶然、僕と君が同じ魂を好きになったのは


「・・・イリア」

少女がゆっくりとこちらに顔を向ける
不機嫌そうに尖った唇と赤い頬が何だか可愛くてくすりと笑った


「あのね?さっき夢を見たんだ・・・」


話を聞いていた少女は彼の楽しく語る様子に、思わず口の端を緩めた



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アスラの口調わからん

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