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僕の日常


『これからよろしくね』

それが最初にかけられた言葉
自分とは違う濃淡のある黒髪が綺麗な少女
そんな彼女の柔らかい微笑みに始め自分はポカンとだらしなく口を半開きにして、見とれた

いや、今だって大差無いかもしれない

だって自分は“成長”しないのだから―――




「レン」
「は・・・いっ!?」

ガタタッと跳ねた自分の体に伴って椅子が騒々しい音を立てた

幾らなんでも呼ばれただけで驚きすぎ?いやいや、そんなことはない

だって誰でも予想もしてない時にいきなり背後から覗きこまれるとは思わないだろ?しかも真横、相手の吐息が耳に当たるくらいの近距離に



「まっ!まままマスター!?」
「・・・?どうかしたの?」

こてんと首を傾げる俺の「御主人(マスター)」、名前はリア
綺麗な黒髪がさらりとレンの首筋を撫でて体に電流が疾るような感覚に襲われる
心臓がバクバクと五月蝿い


な・・・なんでそんなに近いんですか・・・!?


心で叫べど口には出せず
レンは変な汗をかきながら首をぎぎぎとリアの方へ動かす
そんなレンの動きに違和感を感じたのかリアはもう一度首を傾げた


「あ・・・あの・・・」
「ん、なぁに?」
「いえ・・・その・・・」
「なぁに?」
「・・・・・・」
「・・・レン?」
「・・・えー・・・ご用件は・・・」


流石、俺「THE★ヘタレ!」

自分の不甲斐なさに地に頭をぶつけたい衝動に駆られるのを必死で抑え、表情は平静を装う
情けない
嗚呼、情けない


そんな彼の心情も露知らずリアはレンの問い掛けに眉を寄せた
些か、困っているように見える


「うーんと・・・特に用事はないん・・・だけど」
「あ、そう・・・ですか」


微妙な空気にポリポリと頬を掻く
まぁこの天然御主人様が意味のない行動をとるなんていつものことだし、これ以上の追及は可哀想なのでレンは話題を変えようと口を開く
・・・開いた、だけ


「意味を述べるとしたら急にレンにくっつきたくなったからかな」


・・・・・・・・・


「・・・え?」


全身が一瞬でフリーズした、思考も真っ白で返す言葉が見つからない

そんなレンに反して少女は両手をレンの片方の肩に合わせて乗せる
仕上げにその手の上に顎を添え、そう、その姿勢はまるで小動物のおねだりポーズ
これがもし肩じゃなくてどっかの机で、彼女の目線が自分と同じ高さじゃなくて下からの上目遣いなんてされてたら、きっと今頃理性の「り」の字も消え失せていたはずだ

要約すれば、可愛い


大きな瞳が嬉しそうに緩んでこちらを見ている
僅かに頬が赤く染まっているように見えるのは自分の心眼のせいだ、絶対


「レンはあったかいね」

ふわりと愛らしく俺の御主人様は笑う
それはまるで太陽のような神々しさで、あまりの眩しさにレンはリアから顔を逸らした

全身が物凄く熱い
特に顔が集中的に


くすりと彼女が耳元で笑う気配
それと共に肩にかかってくる微かな重み

リアは小動物な姿勢のまま器用に目を閉じていた

肩から伝わる温かさに鼓動が騒がしく跳ね、胸の内で一つの感情が暴れる

抱いてはいけない感情だと痛いくらいに理解してる筈なのに、自分は求めている
少女の言葉を、彼女の笑顔を、リアの温かさを


自分はアンドロイドで、彼女は人で俺の大事な御主人様

優しくて可愛くて世界に唯一人しかいない大切な人


望めないと知りながら、それでも愚かにレンは思う



『せめて、この時間が暫く続きますように』



少女の温もりに“成長”しない機械の少年は切なげにその小さな手に自らの掌を重ねた





++++++
何で悲しい路線に走るの自分
うちのマスターさんは天然マイペースなので実る日は遠い、そしてヘタレンだからなお遠い
その内またボカロ書きたいなぁ

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