ライン

二身同体


「んー?どったのテュリー?」
「・・・・・・え?」


読書してる途中、不意に名前を呼ばれたと思ったら自分の膝に腕と頭を乗せたキルと目があった
彼女は不思議そうな顔でこちらをじっと見上げている


「うんと・・・何が?」
「何が?じゃないよ、どーして今にも泣きそうな顔してるの!」
「えと・・・僕が?」


惚けているつもりはないのだがどうも気に障ったらしい、キルはむぅっと膨れると僕の頭を一発つついてぷんすかと怒り出す


「なに?どんな内容の本だったの?包み隠さずキルちゃんに暴露しなさいっ!」
「えっと、魔物に育てられた子供の話
小さな頃親に捨てられて魔物に育ててもらった男の子が成長して、ある日育て親の魔物をとある人間に殺されちゃった・・・っていう部分まで読んだところ」

「まーた悲しくなるような話を読んでるねテュリは・・・一体誰に借りたの?」
「えっと、アーチェ」
「ものすっごく意外な人物!!普段何読んでるんだろう・・・気になる(可愛いだけに)
んで?どの辺りでそんなに悲しくなっちゃったの?親代わりの魔物が殺されちゃったとこ?」
「あ、うーんと・・・そこも悲しかったけどさ・・・」


苦笑いして頬を掻く
説明を一瞬躊躇ったがキルに言い訳は通用しないので彼女の言葉を借りて「包み隠さず」話すことにした


「その、後にさ・・・その男の子が「復讐」しようとするんだ、親の仇って・・・」
「ふむふむ、まぁ当たり前の流れだね〜親を亡くしちゃったわけだもん、辛いよね〜」
「・・・辛い、んだよね」

「んー?」


キルが不思議そうにこちらを見上げる
きっと暗い顔をしているであろう僕を見てキルは首を傾げたが暫くすると見当がついたのか「あぁ」と頷いた


「そっかそっか、テュリは「憎しみ」がないんだもんね、だから分からなくてそんなに悲しいんだ?」
「なの・・・かな」


小さく俯く
人が持つ「怒」の感情の一つで最も強い感情、「憎しみ」
僕の心に、それは無い
僕が知っているディセンダーの兄弟は皆、どこかの感情、機能が抜けている
何故かは分からない、多分二人に別れる際に起こった事態と誰かが言ってたりもした

でも理由なんて大した問題ではない
僕が辛いのは他人が持つその感情に同調できないこと

理解できれば、人は寄り添える
だけど理解できなかったら・・・?


「こーら!」

急にキルが僕の額をちょんとつつく
思考に没頭していた意識は一瞬で戻ってきた

「あんまり考えてると心苦しくなるよ〜?」
「でも、」
「テュリは「憎しみ」なんて持たなくていいよ!苦しいだけだし
そんな思いはボクだけでいいの!」
「それは・・・不公平じゃないか」
「不公平なわけないよ!代わりにテュリはボクが知らない「恐い」を感じるじゃない
辛い感情なんでしょ〜?」
「え・・・う、」


キルの返しに何も言えなくて閉口してしまう
それに何を満足したのかキルはにへ〜と笑った

「はいはい、この話題は終ーわーり!もう悲しまないの!ん?泣きたいならボクの胸を貸してあげるから」
「・・・何ソレ、勝手に終わらせないでよ」

呆れてくすりと笑うとキルが更に笑顔になる
同時に胸の中に暖かい何かが広がってハッとした


僕とキルはいわば共同体
姿形・性格がどんなに違っても、深い深いところで繋がっていて離れることは決してない
そして、繋がっているからこそ互いの心情が常にぼんやりと伝わってくる

喜びも悲しみも、嬉しさも苦しさも、痛みも何もかも

きっとキルは先程までの自分の悲しみを感じ取っていたんだ、だから彼女は・・・


「ごめんね」
「ん?何が?」
「ううん、僕はまだお子様だなって話」
「またまた〜変なこと言っちゃって〜」
「はははっ
・・・ねぇキル」

静かに呼び掛けるとキルは「なに?」と首を傾げる

「さっき言ってたさ・・・本当に借りてもいい?」

こてんと首を傾け尋ねるとキルはきょとんと呆けた顔になってから、すぐにまた笑った

「なに〜今日はやけに甘えてくるねテュリ君?まぁ可愛いからいいけど
ほれ!ドーンと姉さんの胸に飛び込んできんしゃい!」
「あれ?いつからお姉さんになったの?」
「まぁた惚けてからに!生まれた順番を思い出してみなさい!ま、コンマ数秒だけど・・・」

真剣に話す様をクスクスと笑って眺めてからキルの肩に頭をのせる
すぐにキルの腕が背中に回ってきて優しく包み込んでくれた
温かい気持ちが胸一杯に広がって心地良い


「・・・泣いてもいいよ?」
「まさか、分かってるくせにそんなこと言うの?」


二人して笑い合う

僕等は互いに何時も心を感じあって生きてるけど
ねぇ、たまにはこうやって体の温もりを感じあってもいいかもしれない



双人は二つで一人だから僕がキミで、君がボク




++++++
設定的なとこが混じってますが、とりあえず二人は仲良しと言いたいのです

- 322 -


[*前] | [次#]
ページ:





戻る







ライン
メインに戻る