ライン

噛み合わない


あっ!と思った時にはもう遅い

挫いた足は体を支えられず、支えを失った身体は真下の地面めがけて急降下


聞き慣れた変声期を迎えていない少年の声を最後にイリアの意識は暗闇に消えた




「ん・・・?」

目を開けて最初に入ってきたのは見たことない天井
布団に包まれた体を見てイリアはここが宿屋の一室であると遅いながらも理解した

暫くぼんやりと何も考えずに見上げたままでいる
キィと微かに聞こえてきた音が耳に届いて思考がやっと帰ってきたイリアは首だけ動かして音の方を見た


「っ・・・!起き・・・てたの・・・?」

部屋に入ってきたのは気を失う直前に聞いた声の持ち主―ルカだった
片手に包帯だのなんだの手当ての道具を持っている

彼はおそるおそるこちらに近づいてきて「大丈夫?」と顔を除き込んできた
肯定の意味で首を縦に小さく動かしたがそれすらだるい

自分がぼぅっとしてるのが何となく伝わったんだろう、ルカは深く追求せずに「良かった」と呟いてベッドの隣に置いてあった椅子に腰かけた


「あの・・・イリア?」

「・・・何?」

「その・・・さっき足を挫いたでしょう・・・?一応さっき応急処置はしたけどちゃんと診たいから・・・あの・・・足出せる?」

ルカは視線をあちらこちらにさ迷わせながら非常に申し訳なさそうにボソボソと言葉を紡ぐ
全く、そんなことでいちいち女々しくなる必要もないのに
胸の内で悪態つきながらイリアはだるい体に鞭打って体を起こし足をルカの前に動かす
途中はしった痛みは見ぬふりをした
ルカに弱い所を見せたくないという小さな強がり

挫いた足にはルカが言った通り処置を施した後がある
しかし当てられたガーゼは微かに赤色で、転けた瞬間に擦りむいたのが見てとれた

ルカは軽くイリアの足を持つと丁寧にガーゼを外す
擦り傷は数ヶ所あって、どれも傷口に黒く乾いた血がこびりついていた
「染みるよ」という言葉と共に消毒液を染み込ませた綿が傷口に優しく擦り当てられる
暫くすると言葉通りツンとした痛みが体を駆け抜けてイリアは顔をしかめた
痛みを堪えてると消毒が終わり真新しい包帯がゆっくりと巻かれていく
一重一重静かに包帯が巻かれる度に安堵が心を満たして、最後にルカの規則正しく動く掌を見て、手当ては終了した


「はい・・・終わったよ」

「ん、」


ルカの終わりの合図も聞いたので足を元の位置に戻すため引っ込める
しかしもう用が済んだ筈のルカが俯いたまま動こうとしないのでイリアは訝しげに眉を潜めた


「何?まだなにかあるの?」

「え?・・・う、うん・・・」

「たくっ・・・ハッキリ言いなさいよ!こっちはだるいんだから早く休みたいの!」


足の怪我は自らの不注意だったのにそれを棚に上げて手当てしてくれた彼を強い口調で急かす
そしたらルカは、ちょっと悲しげな顔になった


「・・・ごめん」

「は?」

「その・・・足の怪我・・・僕が、守れなかったせいで・・・」

「はぁ?何言ってんのよあんた
これはあたしの不注意でルカは何一つ関係ないじゃない」


でもっ!とルカが苦しげな声と一緒に顔を上げる
その眼は男のくせに僅かに潤んでいた


「僕が・・・もっと早く気づけたら・・・少なくとも転けることはなくて・・・怪我だって軽く済んだかもしれない、痛みだって、それほどのものじゃなかったかもしれないのに・・・!」

「・・・あんたねぇ・・・何馬鹿なこと言ってるの?あたし言ったわよね?自分の不注意だったって!自業自得たのよ?それを何であんたが気に病まなきゃいけないわけ?違うでしょ!関係、ないじゃない!」

どうして強い口調でしかものを言えないんだろう
確かに思い上がりだってある
けれどルカは本気で心配してくれて、今だって怪我の手当てをしてくれて

感謝しなきゃいけないのに

何で当たり散らすような事しか言えないんだろう


「・・・ごめん」

「・・・何で謝るの?」

「ごめん・・・ごめん・・・ごめんイリア、ごめん」


潤んだ瞳からとうとう大粒の涙が零れ落ちる
一粒、二粒・・・涙は止まらない、止まらない


「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

狭い室内に彼の嗚咽と行く宛のない謝罪の言葉がとつとつと響く

泣き虫

弱虫

おたんこルカ


昔なら鬱陶しいと怒鳴る行動が、今では胸を締め付ける
気付いてしまったから、知ってしまった彼の想い
分かりやすすぎる想いが痛い、苦しい


あたしなんかのために泣かないで


そんな言葉すらかけてやれないあたしは何?


「ごめん・・・なさい」
『ごめんなさい』


心の叫びは彼に届かない




++++++
どうして自分は甘いルカイリが書けないんだ
せめてと書いたらシリアスだよおぉ!最初浮かんだ時はそんなことなかったのにさあぁぁ!
文才ください

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