ライン

毒宣



「ゲーデ、」

聞き慣れた声に呼ばれ彼は振り返ろうとする
しかしその前に背中にトンっと何かがぶつかってきた
そのまま自らに回される腕、自分のものより小さな掌が必死そうに握り締めてくる


「どうしたんだ・・・キ、ル」

名前で呼ぶことに慣れなくて不自然なものになるが相手はそんなこと気にもせず背中に当たったままの頭を動かした


「本当に、どうした?」
「へへへ・・・ちょっと、ちょっとだけ寂しくなったかなぁ・・・なんてさ」
「そうか・・・」


沈黙

互いの体温が触れ合った部位を流れて混ざりあう

温かい

温かいと思う

思っているが


「おい・・・」
「ん・・・?なに」
「お前は・・・寂しいんだよな・・・?」
「そ、だよ」

「では
何故、俺の胸に手を這わせているんだ・・・!」
「あり?やだバレちった?」


キルがゲーデに見えないところでぺろりと舌を出して「ありゃ失敗」のジェスチャーをする
ゲーデの方は赤い顔で唇をつり上げ、こめかみをピクピクと震わせた


「はふん!ゲーデの胸柔らか〜い!きっもちいー!」
「柔らかい訳あるかっ!!俺は男なんだぞ!」
「えー、大丈夫だよー!男の子でも柔い人いるよ、多分」
「多分の話じゃないか!!それに女のお前がそんなことを言ってどうする!」
「平気大丈夫バッチコーイ!あ、ゲーデは二の腕もプニプニしてる〜うふ〜」

やりたい放題のキル
ゲーデはその気儘さに暑くなっていたものがスッと冷めるのを感じた
そして同時に彼女を面食らわせるであろう言葉を己から吐き出す


「・・・お前、そんなに俺に仕返しがされたいか?」


これはつまり要約すれば「お前が触っているように俺も触るぞ?」という大胆不敵な発言である
しかしキルは目を一瞬キョトンとさせてから

「あぁ、うん!別にいーよー?」

と気軽に返した


「・・・は?なっ・・・おま・・・」

そんな簡単な返事を予測していなかったゲーデは呆気にとられる
てっきり「何言ってんのさバカ!」と罵倒なり飛ばされると考えていたらしい

だがキルには通じなかった
彼女はゲーデの前に回り込むと両手を腰にあて胸をつき出すポーズをとる


「ほれっいつでもドゾー」
「なっ何言って・・・お前正気か!?」
「もちのろん、そういえばよく聞く話だけど好きな人に胸を揉んでもらうと大きくなるとか言うよね!
あれって本当なのかな?試してみようよ」


てなわけでっ!とゲーデを急かすキル
しかしそんなこと言われて対応できる者は少なく、またゲーデはその少ない者に含まれてはいなかった
よってしキルの一語一句すべてに顔を真っ赤にした彼は


「で・・・できるわけあるかぁーっ!!!」

とあらんかぎりの声で絶叫した


「なにさぁ、先に言い出したのはゲーデなのに」
「ふっふふ普通お前のように平然と胸をつき出すバカがいるかよっ!!いるわけねぇじゃねぇか!」
「いるじゃん、目の前に」
「お前以外に、だ!バカ野郎!」
「むー、ひっどーい」



ぷりぷりと怒ってキルはそっぽを向いた
ゲーデは疲れから大きなため息を吐く
どうして自分はこんな女を受け入れたりしてしまったんだと頭を抱え出す始末だ



「折角見返してやろーと思ったのに、つまんないの」


ふと、キルが漏らした愚痴にゲーデがぴくりと反応する


「オイ」
「むー?なぁーにぃー?」

気のこもっていないキルの適当な返事に、ゲーデは何故か真面目な顔をしたまま彼女を睨み付けた


「・・・誰を見返すんだ」
「誰って・・・そりゃあの失礼極まりない変態の中の変態野郎だけど?」


彼女が変態と呼ぶ「男」は一人だけ
本人にそんな気は毛頭ないだろう

けれど、されど

酷く腹立たしい気持ちになるのは何故だろう
そいつがいなくなってしまえばと願うこの気持ちは何だろう
彼女が
彼女を閉じ込めてしまいたいと考えるこの気持ちは――・・・


「・・・ゲーデ?」

異変に気づいたキルが覗き込むようにして顔を近づけてきた
薄氷色の瞳が輝いている

綺麗な瞳、そのまま「食べてしまいたい」ほどに美しい


「・・・・・・な」
「へ?」

彼女の腕を強引に掴み無理矢理その体を自分に近づける


「ゲー・・・デ?」


薄氷が微かに揺らいだ、背中にゾクリとしたものが這い上がる

「・・・俺の前で他人の話をするな」

渡さない
渡したくなどない

コイツは俺のものだ



嫉妬 独占欲

嗚呼なんて汚い感情をただ漏れにしているのだろう
だが構うものか


「なぁ、キル・・・?」

ディセンダー

無償の光を与える者


負を浄化する力の持ち主よ
このまま俺の汚れを癒せ
癒してくれ
俺だけのために


「お前は俺だけを見てればいい」


何か訴えようと動かしたたその唇を、冷たい感情が喰らい付くように塞いだ





++++++
何がどうしてこうなった

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