紅桃-襲撃・撃退・聴取-
夢を見ました。
其処で私は一人の女の子に会いました、他には誰もいません。
寂しくて、私は彼女に話しかけます。
けれど彼女は、私が声をかけた途端に振り返って睨んでくるのです。
―憎しみのこもった、憎悪の眼で―
そこで夢は終わります。
彼女は何故怒っていたのでしょうか?
彼女は私を知っているのでしょうか?
昔の私は、彼女を知っていたのでしょうか・・・?
「道は・・・こっちか?」
「違うよ紅苑さん!そっちは昨日来た道だよ」
「・・・そうか」
とある村から少し離れたある別れ道。
その手前で二人の旅人が行き先について話している。
道を尋ねたのは黒曜の髪に漆黒の服、そして紅い色をした瞳を持つ暗い印象の青年である。
対し、彼と会話しているのは明るい土色の髪に紅に近いピンクの瞳を持った少女。
全てにおいて対照的な二人、しかも年上であろう青年の方が、年下であろう少女に説明を受けている異様な光景。
しかしそれには訳がある。
青年の名は嘉戯紅苑。
彼は名前以外の記憶が、何故か一日毎抜けていくという奇妙な記憶喪失を持っている。
つまり朝になる度記憶がリセットされたように無くなってしまうのだ。
その為、杏架がそんな紅苑をナビゲートしているのである。
ちなみに杏架も記憶喪失者である。
しかも紅苑と違って完全な記憶喪失。
杏架という名も自分で即興に考えたもので本名ではない(多分)。
そんなやりとりの後、二人は進むべき道を定めゆっくりと木々の立ち並ぶ道を歩き始めた。
「わぁ!あの花綺麗だよ!なんていう花かな?」
「さぁな・・・だが、図鑑なにかで探せば分かるんじゃないか?」
「紅苑さんは知らないんですか?」
「・・・知ってたかもしれんが覚えてないからな」
「あぅ、そうでした」
などとさして意味のない会話を続けながら足を進める。
記憶を失いながら何故か杏架の事は覚えている紅苑は、ここ数日間で彼女が好奇心旺盛であることを知った。
記憶がないことも関係しているのかもしれないが、とにかく気になるものがあれば右へ左へ忙しなく、とても危なっかしい。
そしてその悪い予感が的中するように。
「あ!あれ何だろう!」
タタタッ・・・ガっ!
「あ「危ないっ!(ガシッ!←杏架の腕を掴む音)」
何度目かの転倒未遂に紅苑は内心で冷や汗をかいた。
「あ・・・ありがとうございます紅苑さん」
「杏架、はしゃぐのは分かるがもう少し落ち着け」
「はぁ〜い・・・」
顔面ダイブは避けたが、注意されたことに杏架は落ち込む。
そんな力ない状態のまま不注意で転ばれても困るので、紅苑は慰めの意味を込めて杏架の頭をポンポンと叩き軽く撫でる。
効果は絶大で、杏架は直ぐにくすぐったそうに身をよじるとクスクスと笑いだした。
背筋も自然にピンと立つ。
わかりやすいが故に微笑ましい動きに紅苑はつられるように小さく笑い、歩を進める。
「―――ッ!?」
ふと何かの気配を察知し、紅苑は身を固くした。
「どうかしたの?紅苑さん」
「・・・静かに」
急な変化に戸惑うが、杏架はとりあえず紅苑の言葉に従い口を閉じる。
周囲を注意深く見渡す。
静かな木々の中、時間は流れ。
ヒュッ――
「・・・ふぇ?」
空を切るような音が聞こえたと思ったら、いつの間にか紅苑の片手が上がっていた。
「うんと・・・紅苑さん、それ何のポーズですか?」
思ったことを尋ねるが返答はなし。
彼の耳に声は届いていないらしくそのままゆっくり上げた片手を眼前へと動かした。
よく見ると紅苑の手には小さな銀の筒状をしたものが握られている。
まるでダーツをするのかというように慎重に狙いを定めて、振りかぶる腕。
体全体で勢いをつけて。
ビュッ!
ガアァンッ!!
「きゃあああっ!?!」
「え!なに?悲鳴・・・?」
一連の出来事が早すぎて状況が把握できない杏架だが、とりあえず紅苑が投げた筒状の物体に驚いた誰かがいるらしい。
「そこの、隠れてないで出てこい!来ないのならこちらから・・・」
見えぬ相手に今にも突撃でもしようと姿勢を低くする紅苑。
が、
「ふわーっ!!タンマタンマタンマ!
ちょちょちょちょっ勘弁してっ!」
と、悲鳴じみた叫びと共に木々の間から勢いよく誰かが飛び出してきた。
「・・・ねぇ?平和に解決しましょうそこのお兄さん?」
「・・・・・・お前は誰だ?」
「ははは・・・えぇーっと私はですねぇ・・・」
++++++
紅苑のアクロバティックな動きを表現しきれません・・・。
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