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ブローチ押し付け戦


「・・・レク?」

「れっくんソレなぁに?なぁに?」

食堂のキッチン
紅髪の少年を中心に右で蒼髪の少年、左で黒髪の少女が彼の手元を覗き込んでいる
レクと呼ばれた彼の手元には花があった
そう、キッチンに花


「姉さん、これは菓子ですぜ」

「えー!お菓子なのコレ!」

驚きと喜びが交じった瞳で少女が菓子の花を凝視する

「本当に・・・お菓子なの?」

「そだよテュリ君、けっこー熱かったんだからー」

「君のその器用さに僕はビックリだよ・・・」


テュリは呆れを含んだ目でレクを見つめた
元よりレクは手先が器用で裁縫(特に刺繍)などが得意だがコレは行き過ぎではないか?とテュリは内心苦笑した

「っと、そうだテュリにコレやるよ」

ほい、と彼が何かを投げ渡してきた
それを危なげに受けとる

「わっ!・・・危ないじゃないか」

「わりぃわりぃ、さて!フィニッシュですぞミナカさん!」

「わくわく!わくわく!」

最終段階に集中するレク(と期待を声に出しているミナカ)を見て、テュリは文句を言おうとした口を閉じ先程投げ渡されたものを見る

それは縁に薄氷色と薄紅色が使われた剣に花を巻き付けた模様が入った楕円形のブローチだった

「これレクが?「ちょっとお待ちよ・・・でっっきたぜミナカさん!」

「かーんせーい!れっくんやったね!パチパチー」

「・・・(汗)」

無邪気過ぎる姉弟に再び苦笑

「おっつ!んでなんだいテュリさん」

「えと・・・このブローチ、レクが作ったの?」

「いんや、貰い物」

「そう・・・って駄目でしょ!気軽に貰い物をやるだなんて?!」

「いーのいーの名も知らぬ依頼主様から頂いた物だから」

「全然良くないよ・・・」

ガックリ肩を落としながらブローチを彼に返そうと持っている方の手を差し出す
しかしその手は相手にまるでグーをパーで押し返される形で阻まれた

「まぁまぁどうせだから受け取っとけって」

「そんなこと言われても僕には使い道がない物だし、それにあげるならミナカにあげれば・・・」
「姉様には既に献上済みです」

「うん!キルとお揃いだよー」

「あ・・・そう」

笑顔で答えるミナカと親指を立てているレクに、テュリはもう一度肩を落とした



『ま、要らないんなら誰かにやるなり捨てるなり好きにしてくれよ』

「そう言われてもなぁ・・・」

頭上にブローチをかざし改めて観察する
良い品ではあるが花のデザインは男が付けるには似合わない
でも使い処がないからといって簡単に捨ててしまえる程の物でもない

うーんと唸りながらブローチを片手で弄ぶ
光輝くブローチは純粋に綺麗だった


「テュリ何してるんだ?」

「わっ?!」

驚き危うくブローチを落としかける
見るとカイウスとルカが此方を見ていた

「あ、ごめんねテュリ・・・驚かすつもりはなくて・・・」

「大丈夫だよルカ、僕がちょっとボーッとしてただけだから」

「ソレ何だ?眺めてたみたいだけど」

「ブローチ、レクがくれてさ・・・」

テュリは簡単に事の経緯を二人に話す


「へー、じゃあ処理に困ってるのか」

「処理・・・まぁうん、そうだね」

「随分丁寧な作りだよね・・・レク何処で貰ったんだろう?」

「さあ・・・?」

ルカが興味深げにテュリの掌に乗っているブローチを見てくる
対しカイウスは何かを考えるような素振りの後に何故か笑みを浮かべた

「じゃあさじゃあさ、いっそのことプレゼントしちゃえばいいじゃないか」

「?誰に?」

「そんなの決まってるだろ」

このこの〜と肘でを小突いてくるカイウス
誰?と考えるテュリだがすぐ何かに気づき顔を赤らめる

「えっ?あの・・・カイウス、もしかして」

「あげちゃえよ!カノンノに「わーっ!ちょちょわっわーっ///!」

想い人の名前を出され慌て出すテュリ
カイウスはそれをにやけた顔で見、ルカは何が恥ずかしいのかつられるように赤面している

「きっと笑顔で受け取ってくれるぜカノンノ」

「そういう問題じゃなくて、その、渡すっていう行為が・・・///
ハッ!そうだコレ、ルカがイリアにあげれば?!」

「えぇっ!?!むむムリムリムリムリ!絶対無理だよ!
だったらカイウスがルビアにあげたらいいじゃない」

「はぁっ?!何で俺がるっ、ルビアなんかにやらきゃならないんだよ!!絶対無いっ!」


喚き騒ぐ少年達
その後ブローチの押し付け合いは暫く続いた・・・




「あれ?パニールそれなぁに?」

「コレ?さっきレクさんが「ラチがあかないから貰って」って言ってくれたのよ」

「へー、可愛いブローチだね!」

「ふふふ、カノンノも付けてみる」

「いいの?じゃあ付けて付けて!」


後日そんな微笑ましいやりとりが食堂で行われていたらしい





++++++
片思いって可愛らしい

レクの無駄に洗練された技術をお披露目できたので良し

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