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違和感2


この学校には変わった校風がある。
それは<全ての生徒は自身のパートナーを持つこと>。

パートナーなどと名うっているが、実質八割の生徒にとってパートナー=恋人となっている。
そのため入学からパートナーを決めなければならない二ヶ月の間、一年生達は絶えず告白したりされたりし合うのが、学校行事のようなものになっていた。




柳疾人は、良くも悪くもごく普通の生徒である。
告白する相手はいなかったが、可愛い彼女が欲しいという思いは持っていた。
それでも一月は何のアクションを起こすことなく、そろそろと焦りがで出した頃、その出来事はあった。


その日からパートナーになった奥家静留とは毎日一緒に下校している。
彼女曰く「慣れるための一環」と「周囲への納得」を兼ねているそうだ。

奥家静留はそれなりの家の出だった。
その礼儀作法と、綺麗に結われた黒髪から大和撫子と称されている。
茶がかった大きな瞳とすっきりした小鼻。肌は白く唇の薄紅が相まってよく映える。

入学当初、そんな絶世の美少女に周囲の男子は浮き足立ち、こぞって告白をした。
そんな彼らを、彼女が全員背負い投げを決めて追い返したのは最早伝説として伝わっている。

そんな伝説を築いた静留が、なぜ、自らのパートナーに柳疾人を選んだのか?

それには城ヶ根竜が深く関わってくるのだが、当人達以外、その顛末を知らない。
その為、生徒によっては未だに彼女はパートナーを持たず<特別申請>をしたと信じる者もいる。
そんな人間に対して知らしめるために、二人の下校は今日も続いていた。


太陽の光が仄かに差し込む校舎に靴音だけが響く。
廊下を歩く二人の間に会話はない。

手を伸ばせば届くだろうが、互いに若干距離がある。
ピッタリ真横に並ぶのではなく、半歩程疾人が後ろにずれて歩いていた。
もしも、このまま人のごった返す街中を歩いていたとしたら、彼らはおおよそ<一緒にいる>ようには見えないだろう。

誰もいない校舎だからこそ、一緒に歩いているととることができるだけ。

その姿に、パートナーという言葉が含む<恋人>のような様子は受けとることができなかった。




けれど、疾人はその事に対して何かを感じることはなかった。

そもそも抱いていたものと今の形は違えど、一応パートナーを得ることができた。
それ以上望むことなどないし、不満もない。
彼女が何かを望むなら、要望通りに付き合うし、反論をするつもりもない。

これでいい。

これで後は学校でやるべきことをやって、三年間を過ごすだけだ。

それに、奥家静留はパートナーに<共に行動する>以上を求めていないようだ。

ならばそれに徹すればいい。
それだけだろう。


+++

「じゃあ、ここで」

学生寮の分かれ道。
男子寮は右に、女子寮は左にあるため自然とこの場所が二人の別れる地点となる。
丁寧に足を止める疾人に、静留もいつも通り振り返る。

「またね、奥家さん」

いつも通り柔らかな笑みを浮かべていつも通りの挨拶。
繰り返し同じこと。

「・・・・・・・・・」

けれど、ほんの数日前から静留はその挨拶に言葉を返さなくなった。
無言のまま顔を逸らして帰路につく。
数秒遅れて、別の足音がもうひとつの帰路につく音が聞こえた。

いつも通り。

だけど、一ヶ所だけ変化したことに、相手は何も言及はしなかった。
それは幸いと言えば幸いだった。

なぜ自分が返事をしないのか、その理由を説明しろと言われても説明できないから。

言えることはただひとつ。

「違和感がある」


それが具体的に、どんな違いなのかは分からない。
けれど確かに、疾人から何かを感じて、それに戸惑う自分がいた。


柳疾人は、よい人間だ。
真面目でしっかりしているし、何事もそつなくこなしている。
男子にしてはほっそりとしていて、身長も平均よりは低い。
ぱっちりとした瞳と、小さな口は中性的で肌も白い。
けれど、常に浮かべた笑みに媚びはなく、爽やかな少年を思わせるそれに魅力を感じる人間はいる。

城ヶ根竜のようなイレギュラーを除いても、友人はいるようだし、話す内容も至って男子生徒そのものだと思う。

けれど、そんな姿を見て納得しようとすればするほど、小さな違和感は確かな形を持っていくばかりだ。

何が特別おかしいとか、
どこかたまに変だとか、
明らかにずれているとか、
そんなものはないはずだ。ないはずなのに、

柳疾人だから、感じる違和感。
ただ毎日<同じこと>を繰り返すだけの、形だけのパートナー。

考えすぎだろうか。
自室のベッドに倒れ込みながらぼんやりと考える。


きっと明日も私は返事をしない。

笑顔以外の顔を見たことない相手を頭に思い出しながら、絶対の自信を持ってそう思った。


+++
疾人くんと静留さんのお話。
その内雅都くんも書きたい。

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