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寝ぼけてたから
学校終わりの午後五時。
通い慣れた(クローゼットの中身以外)面白味のない部屋に足を踏み入れれば、ベッドの上に丸い塊を見つけた。
すたすたと近づいてみたら塊は布団で、その布団の隙間から僅かに覗く見慣れた顔。
「寝てるし・・・」
呆れたように比奈は呟いた。
瞳を閉じて規則正しい寝息をたてる光太の寝顔は穏やかそのもの。
「人との約束も忘れて呑気なものね・・・」
そう、本日二人はお家デートの予定だった。
もちろん光太にはヒカルちゃんになっていただく。
そのヒカルちゃんに着せる服もいくつかチョイスして持ってきたのに、当の本人はぐっすり。
恨みを込めて無防備な頬をぐにぐにつまむと「む、う」と情けない声が薄い唇からこぼれた。
「ヒーカルちゃん!」
試しに呼んでみると眉がぴくりと反応を示したが、それだけ。
なんとなく癪だったので頬をつついたり、布団を捲ったり、鼻をつまんだりと様々なちょっかいを繰り返す。
頬を引っ張ってみたところでゆるゆると目蓋が持ち上がるのを見つけ、比奈は口早に捲し立てた。
「ちょっとヒカルちゃん、約束忘れたわけ?
今日はせっかく新しい服持ってきてあげたのよ?
それなのにぐーすか寝ちゃったりして、ひどいじゃない。
これから一人ファッションショーしてもらうんだから。
私は何も言うこと聞いてあげないし、拒否権だってないからねヒカルちゃん」
「・・・・・・ひな?」
寝起きのどこか焦点の合わない瞳が比奈を見上げる。
そのぼんやりとした様子に比奈は相手がまだ目覚めていないことを察した。
頬をひっぱたいてやろうか。
そう考え、光太の頬に手を添える。
ちょうど真正面に向かい合う形になって、寝ぼけ眼が彼女を見つめる。
それを受け止めながら手を振り上げ頬を叩こうとしたその瞬間、強い力に体を引かれた。
「きゃっ!?」
バランスを崩したため、軌道のずれた手のひらは布団を思いきり叩く。
それから遅れて比奈の体も布団に俯せで倒れた。
混乱しながら、何が起きたのか理解するために首を動かす。と、驚くほど近くに光太の顔があった。
ぎょっとして身を固める。
すると、眠たげな表情がゆっくりと穏やかなものに変わる。
普段の光太なら、まず見せないとろけた瞳と微笑。
「ひな」
恐ろしく思えるくらい甘い声音が響き、頭を温かいものが撫でる。
最後にごく自然な動作で体を引き寄せられ、壊れ物を扱うように抱き締められた。
一秒の静寂後、再び穏やかな寝息が聞こえてくる。
先程よりも近く、はっきりと耳に届く音に比奈は溜め息を吐いた。
どうやら光太に目覚めようという意思はないらしい。
「・・・仕方ないんだから」
もぞもぞと腕からの脱出を試みるも、存外がっちりと捕まっていて徒労に終わる。
だから、比奈は目を閉じることにした。
起きたら十倍返しにしてやればいい。
そう考えて、自らも微睡みに身を委ねる。
トクトクといつもより早い心臓の音は無視をすることにした。
++++++
無意識の方が相手をうまく落とせるのが光太だと思ってる。
むしろ光太は考えない方がいいと思う。
つまり光太が光太のまま比奈を落とすには無我の境地に達するしかない(え
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