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わたしたち三年生


「高内くーん!遊びましょ〜!」

むにっという音が聞こえそうな勢いで詩穂里が陽の右腕に抱きつく。
瞬間、どよめくクラス。
ザワザワ、ザワザワと騒ぐクラスメイト達。
ただ一人、固い表情で事の成り行きを見つめる生徒には誰も気づかない。

「うわぁ、かいちょーったらホント羨ましー。ねぇ平?」
「ちょっ、何で僕に振ってくるの!?知らないよそんなこと!」
「またまたぁ照れたってバレバレだぞ〜?
平だって羨ましいんだろ〜あの魅惑のお「黙って!!」

周囲が盛り上がる中、ようやく抱きつかれた当人が気だるそうに顔を動かす。

「・・・何の用だ三ヶ谷」
「言った通りの用よ。あ・そ・び・ま・しょ☆」
「断る」

詩穂里の誘いを一蹴して陽は立ち上がると、唯一顔を固くして状況を見ていた友人の元へ移動した。
その友人はじとっと睨むような瞳で彼を迎える。

「・・・鼻を伸ばしてどうしたんだよ」
「それは幻覚だな。さっき言ってた・・・アレ、アレ片付けるぞ」
「なんだよ。ダルいから明日にするって言ったのお前じゃん」
「・・・気が変わった・・・さっさと終わらせるぞ」

返事も待たず、教室のドアに向けて歩き出す陽。それに溜め息を吐きながら、彼の友人であり片腕である絵は残りの役員を呼ぶ。
そして四人並んで教室を出・・・・・・るが、なぜか真っ先に出たのは乗り気でないはずの絵で、その事に萩と平は首を傾げた。
そして気にもしてない陽に続いてドアをくぐり教室を後にする。

生徒会役員ズがいなくなり、数分前の平穏に戻るクラス。

詩穂里はフラれたことを気にすることもなく自分の席に戻る。

「本当に高内君って硬派というか真面目というか・・・ねぇ菫ちゃん?」

と、急に話しかけられた少女は数回目を瞬かせる。そして何故かうっとりと顔を緩ませた。

「ですよね・・・高内君っていつも渋澤君と一緒ですし・・・しかも二人とも一途で・・・・・・すっっっっごくお似合いですよね・・・!」
「う〜ん話がずれてる気がするけどいいわ。菫ちゃん、あの二人のどこが好み?」
「身長差・・・萌えです・・・ハッ!で、でも私はやっぱり長谷川君と相沢君が一番だと思うんです!こう・・・危うい雰囲気が・・・!!」


くしゅんっ!!

「どうした巧。風邪か?」

彰に尋ねられ、巧はすんと鼻をすすりながら首を傾げた。

「ん〜・・・いや、急にムズムズしただけ、かな」
「本当にか?ちょっと見せてみろ」

にゅっと彰の腕が巧の首に伸びる。その指にうなじを撫でられ巧は体をビクッと震わせた。

「うひっ!!お、まっ急に首はやめろよ!!」
「何だ、熱を見るだけじゃないか。顔も赤いし、やっぱり風邪を引いたんじゃないか?」
「ち、違う違う違うから!大丈夫だから!熱もないから!触らなくていいから!」

やんややんやと騒ぐ菫さんイチオシの二人。

「・・・ね?素敵でしょ?あの長谷川君の然り気無く意地悪そうなとことか、相沢君の恥じらってる姿とか・・・はぅん・・・」
「そんな恍惚モードのアナタが誰かに襲われないか心配だわ、私」

自分の世界に浸る菫を温かい目で心配する詩穂里。
そんな女子の姿を見て明はツンツンと隣の男子をつついた。

「ねぇゆうくん。女子って癒しだね」
「気持ち悪いな。てか、その名前で呼ぶんじゃねぇクソ」

べし、と手を払い除けられながらも明はフフフと怪しく笑う。
その様子に遊佐はぶるりと身震いした。
コイツろくなこと考えてないな、と。

「なんだよ〜お隣ちゃんにはあだ名OKなのに俺はダメなわけ〜?」
「んな・・・お前、いつそれを・・・!」
「可愛いねぇ、ガールフレンド。羨ましいゾ☆」
「マジ気持ち悪いな!黙れメガネ!!」

バキッといい音がして遊佐のパンチが明の右頬に決まる。彼はぐあっと悲鳴をあげ倒れると、すんすんとうそ泣きを始めた。
まさに茶番。

それをじっとりとした目で見ながら、どうしてこんなやつがあんな人のいい幼なじみを持っているんだろうと本気で考えた。


くしゅんっ!!

「ほら見ろ、やっぱり風邪だ。保健室に連れていってやろう」
「いいい、いい!いいです!いらな・・・うわぁ!だから首に触るなぁ!!!」

二発目のくしゃみにより余計彰からの心配(という名のちょっかい)に襲われる巧。
ヒイヒイ逃げ惑いながら、巧は無我夢中で床で芝居中の幼なじみにしがみついた。
「いやん」とふざけて床に転がる二人。遊佐は間近で氷点下のオーラを醸し出す彰に二度目の身震いをした。



「あぁ・・・はふぁん・・・」
「そろそろ現実に戻りましょうか菫ちゃん」

イチオシの追いかけっこに、いよいよだらしない姿を表し出した菫を、詩穂里は目を塞いで現実に呼び戻す。
ぺりっと手を引き剥がした下で潤んだ瞳が不満を訴えてくることに、詩穂里は楽しくて笑った。




わたしたち、三年生。

今日も今日とて賑やかです。


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我が家の三年生ズ。
短くしたら早々と男子校生徒会ズが退出・・・はは。

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