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女男子生徒Bー3
幼い頃、ただの“かい”という少女は今ほど素直ではなかった。
両親も知らず、名前も“かい”だけで姓すらない。
そんな自分が嫌で、そんな世界が大嫌いで、だからみんないなくなればいいと思った。
だって一人きりなら、だれも馬鹿にしないし、怖いこともないはずだから。
みんな、みんな、みんなみんなみんな・・・消えてなくなれ。
「・・・・・・ふにゅ?」
目を開けたら、そこは代わり映えのない寮の自室だった。
+++
「小坂井、ちょっといいか?」
そぅっと話しかけたらぎょっとされた。そりゃそうだ、おれの方から話しかけたの初めてだもん。
しいて言えばおれ、陽以外に自分から話しかけた奴いなかったもん。
『寂しい奴だな・・・!』
激しく初期の己の行動を後悔する。話し相手、大事だよ。
「な・・・なんだい渋澤くん?」
「これ、陽に頼まれたんだけど・・・」
再び小坂井がぎょっとして体を縮こませる。ちなみにその陽さんは例によって多忙の身なので教室にはいない。
昨日頼まれたものを小坂井がおそるおそる受け取る。そして文面に目を通すと、ぱっと顔をあげた。
「こ、これ生徒会の?」
「みたいだな」
「高内くんが、俺に?」
「生徒会のメンバーはお前と陽しかいないじゃん」
するとどうだろう。
小坂井の顔がみるみるうちにぱあぁぁと明るくなる。なんか今にも跳び跳ねそうな感じ。
「ど、どうした・・・?」
「いやぁ・・・だって嬉しいじゃん・・・頼りにされたんだよ?俺必要な子ってことなんだよ?へへへ・・・」
にやけ顔でなんとも嬉しそうに話す小坂井。
どうやら彼は頼りにされることに喜びを覚える人間のようだ。
仕事がないのがありがたいと言ってたくせに、今の方が生き生きとしている。
陽が全く頼りにしてくれない今までの状況はそれなりに苦だったんだろうなと、絵はなんとなく察した。
「あぁでもこうやってきたってことは・・・直接はくれないんだな」
ぼそっと呟いたと思うとしおしおと喜びオーラが萎んでいく小坂井。
「渋澤くん、俺は思うんだよ。きっと俺はもっと別のところに必要とされているのではないかと・・・」
「あぁ・・・まあ、小坂井のやる気ならどこでも重宝されるだろ」
何せイキイキと仕事をしてくれるんだしな。
「・・・うん。気が早いけど決めた。来年度は別の委員会に入ることにするよ」
「よ、陽とコミュニケーションをとって生徒会に残るという選択肢はないのか・・・?」
「考えたけど・・・でも高内くんはやっぱりちょっと、近寄りがたいオーラっていうのかな?相手から拒絶されてる感じがして話しかけづらいし」
困ったように眉を下げて語る小坂井。やはり陽の当初の印象は払拭できないようだ。少し残念に思う、とさらに小坂井が言葉を重ねた。
「なによりさ、俺は渋澤が高内の補佐してた方が円滑に事が進むと思うよ」
「え・・・?あ、今おれ推薦された・・・?」
「うん!」
ニコッて満面の笑みが返事と共に向けられる。おぉぉ・・・眩しい。
「高内くんとまともに話せるのもそうだけど、渋澤くんも結構仕事熱心だしさ、頭もいいし・・・生徒会もいいんじゃない?」
「いや、頭のよさ・・・とかは関係なくないか?」
「ちょっとあるかもよ?謙遜するなよ学年首席」
ポンポンと肩を叩かれる。我が校は上位成績開示型なので絵のテスト成績は全国にモロバレだったりする。
それでも・・・改めて他人に言われると恥ずかしい!
「べっ、つにしてねーし」
「またまたぁ、意外と照れ屋なんだな渋澤くん」
「照れてなんて・・・」
ガタンッ!!
教室に大きな物音が響いたのはその時だった。
静まり返る教室。
全員の視線が音の発生源へと向けられる。
それは教室の後部の扉。
乱暴に開けられただろう扉の中央で、一人の生徒が立っている。
「・・・・・・陽?」
どうして、と考える間もなくゾクリと背筋に悪寒がはしる。
なに、と状況を判断する前に陽は動き出していた。
ガタンッ!!
二度目の乱暴な音。
「た、高内くん!?」
小坂井の焦るような声と、教室中の困惑の視線が背に突き刺さるなか。
絵は陽に手を引かれ、有無も言えず教室を後にした。
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