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女男子生徒B-2
「疲れてる?」
「・・・別に」
「今日は早めに帰るか?」
「・・・いい」
たまに欠伸を噛み殺す仕草を見せる陽に「無理をするな」の意も込めて提案してみるが、彼は断り手を動かしている。チラリと文面を見れば、文化祭に関連してるだろう言葉が幾つか見受けられた。
「それ一人で片付ける気か?」
「・・・そうなるな」
「前も言ったけどさ、少しは仕事を人に回せよ。小坂井が仕事くれればやるって言ってたぞ?」
「こざ・・・・・・?」
「忘れたとは言わせないぞ?」
「・・・ああ、副のヤツか・・・・・・?」
思い出したように呟いた、と思えば陽はゆっくりを首を傾げる。次いでこちらに不思議そうな眼差しを向けてきた。
「・・・何で絵が小坂井が言ってたことを知ってるんだ?」
「え?そりゃあ・・・ここ最近よく話すから・・・」
聞かれたままに、素直に答えただけだった。
瞬間、本当に、本当に一瞬間だけ、陽の瞳が怖く暗い鋭さを見せた。
ぶるりと全身が震え上がる。
「どうした・・・?」
そんな刹那の出来事が嘘のような穏やかさで、普段通りの陽が体を震わせたおれを心配してくる。いつも通り、あまり感情の変化を出さない真っ直ぐな瞳がこちらを見ている。
「・・・何でもない」
それだけで精一杯だった。
喉が押し潰されているような奇妙な圧迫感に、上手く言葉が紡げない。
自分ではどうしようもないくらい明らかにおれは、あの一瞬見えた陽に怯えていた。
+++
絵が変だ。
飛び上がりそうな勢いで体を震わせたかと思うと、青ざめた顔で「何でもない」と言って俯いてしまった。
何かしただろうか?
いや、俺と絵はいつも通り会話をしていただけだ。
放課後の教室で、俺は生徒会のプリントを。絵はテスト勉強の教材を机に広げて。
一つの席に向かい合わせに座って、話していただけのはずだ。
今、絵は何で顔を俯かせているのだろう?
どうして震えているのだろう?
何かしただろうか?
何かしたのだろうか?
分からないけど、すごく雰囲気が気まずくて、手元のプリントに目を落とした。
[文化祭の出し物についてのアンケート]
そういえばこの事についてクラスにアンケートを取らなければならない。
面倒だ。
けれどやらないのは気分が悪い。
頼んでみようか。
絵がそういうのなら。
「絵・・・」
「ぅ、ん?な、何だ?」
少しぎこちない返事だが、こちらは見てくれた。
「・・・さっきの・・・コレを小坂井に頼んでもらえるか?」
「ぁ?ああ、いいよ。わかった」
小さな手のひらがプリントを受け取りしきりに頷く。
「・・・絵」
小さな顔がこちらを見つめてくる。丸い瞳。今は少しつり上がっているけれど、もう少し気が抜けると穏やかな優しい瞳になるのを知っている。
今はきっと、俺しか知らないだろう。
ああ、どうしてだろう。
こんな些細なことなのに、胸がざわつくのは。
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