ライン

女男子生徒B



疼くのは、握り拳が振り上げられた時。

プツリと何かが切れる音がして、熱い何かが頭の中をぐちゃぐちゃに溶かしていく。

嗚呼、俺より少しだけ低い声が懇願するように何かを言っている。





「ごめんなさい・・・」



あなたに似ていて、ごめんなさい。

+++

夏、と言われて最初に連想するのは、暑い。

鞄に入れ込んでおいたタオルを少しだけ湿らせて首にあてる。


「ゔあ〜〜・・・」


仄かなひんやり感がとにかく気持ちいい。一時の癒しに絵はふにゃりと顔をだらけた。

夏場の活気ある雰囲気は大好きだ。けれど、汗で全身がべたつくのはいただけない。シャツが張り付く感触は気持ち悪いなんてもんじゃないし、臭いも気になる。

うなじで束ねた髪を持ち上げ、その下の肌を湿らせたタオルで撫でる。それまでは髪で少し熱が籠っていたが、これで暫く僅かな風でも涼しさを得られるはずだ。



キーンコーンカーンコーン。


校内に響くチャイムの音。授業の始まりの合図と共に授業担任が教室に入ってくる。

チラリと、後方座席を伺い見た。



いつもならそこにいるはずの席に、陽の姿はなかった。





夏もいよいよ本番という時期に、うちの学校の文化祭はある。
男子校なので、共学校や女子校と比べれば華やかさで劣るが、その代わり力はあり余っている。それを活かして、毎年大がかりな出し物を企画するのがうちの特色だ。

・・・というのが先日の生徒集会で聞いた生徒会長の説明。


それからというもの、たまに陽の姿が消える。



「今年は例年よりも大がかりな計画があるらしくて、生徒会はてんやわんやなんだってさ」
「へぇ・・・」

のほほんと語るのはその忙しい生徒会に所属してるはずの副クラス長・小坂井誠。なぜか最近、絵に話しかけてきてはのほほ〜んと情報を漏らしていく。


「あの・・・小坂井は仕事がないのか・・・?」
「別にしてもいいんだけどさ。高内君がこっちに回してくれないんだもん」

楽できるからいいけどね〜と言ってにはと笑う小坂井。彼と話すようになって分かったのは、周囲と陽との距離。

絵は・・・まぁ色々あって急速に親しくなったが元々、高内陽という人間は人と繋がりを持とうとしないところがある。それでもきっと、陽は話しかけられでもすれば(それが大人数から一斉にでもない限り)ちゃんと反応を返してくれる。彼は別に人嫌いなわけじゃないから。

だけど当初の第一印象が良くなかったんだろう。陽に話しかける人はいなかった。
絵と知り合って、ヘアピンで髪を留めるようになってからミーハーなのが話しかけはするが、あれらの人種は完全に陽の苦手部類であるため距離は縮まらない。そして、それ以外の人は外見に変化があった程度で、陽に話しかけようとはしない。今目の前にいる小坂井もそういうタイプで、陽には少しだけ苦手意識があるようだ。


「渋澤君は高内君と仲良いよね〜何で?」
「え、いやぁ・・・う、馬が合うのか・・・な?」

はははと苦笑すれば、小坂井はへぇ〜と煮え切らない感じの声を漏らす。

ぼくらの接点は人には話せません。


「まぁいいや。うん、でも高内君ばっかりに仕事させるのも悪いし、渋澤君からそれとなく回してくれるように言ってくれない?」
「い、いいけど・・・」
「それじゃあヨロシクね〜」


ヒラヒラと手を振って彼は自分の席に戻っていく。ちょっとすると廊下からザワザワとした騒がしさが響いてきた。どうやら件の陽が教室に帰ってきたらしい。
戻ってくるまでを見ていると、席につく直前の陽と目があった。何か言おうかと考えたが、チャイムが鳴ってしまい、仕方なく体の向きを元に戻す。

少しぶりに見た陽の姿は、少しだけ疲れているようだった。




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