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生き残った世代



「あんな奴等、死んで当然だったんだよ」

メガネは顔もあげずにそう言い放った。



家具も、文具も、ちり紙のひとつも置いてない無機質な部屋の中で、俺達は「ふれあいの時間」とやらを過ごしていた。

一人はさっき喋ったメガネの少年。彼は坦々とよく意味も分からない本に視線を落とし続けている。
もう一人はその向かいでは、メガネの発言に呆然としている少女。そして最後に俺の三人で、この部屋の人間は全員だ。
ちなみに他の二人の名前など、覚えていない。教えられても、覚えるつもりもない。

三人は一様に制服を着ている。が、デザインは全てバラバラ。つまり、三人とも違う学校の生徒。
勿論、そんな三人は友人関係などという繋がりも持っていない。
けれど、たったひとつだけの共通点が、三人の同じ部屋にいる理由だった。


20XX年の6月。ある1週間のこと。
全国から約六年分の世代が失われた。


集団自殺。


大小関係なく、都会も田舎も関係なく、全ての都道府県の、全ての中高学校の生徒が自ら命を絶った。
何の前触れもなく、突然に。

しかし、その中のほんの一握り。ごく少数ではあるが生き残った少年少女もいた。
政府は彼等の身柄を保護し、監視するために数ヵ所の施設へ彼等をまとめた。


ここはその内の一ヶ所。
三人は生き残った内の一握りの三人。

自殺に繋がりそうなものが全て撤去された空っぽの施設。
まるで監禁だ。
今だって誰かが俺たちをモニタリングしてて、誰も死なないように見張ってる。

当然、メガネの発言も誰かに筒抜けのはずだが、奴等は俺たちを刺激しないために一切接触してこない。

ただ無機質なスピーカーを通して、当たり障りのない命令を与えるだけ。

それだけなのだ。




「・・・悲しいことを言うのは、もう止めようよ」

ポツリと、少女が言葉を発した。
その内容が、数分前のメガネの発言への返答であるらしく、メガネもゆっくり顔を上げ、少女を見た。

「きっと、きっとね?世界に死ななきゃいけない理由のある命なんてないんだよ。だからそんな風に決めつけるのは・・・間違ってる」

真摯な眼差しをメガネに向け、少女は言う。
ねっと言い聞かせるようにする姿はまるで若い教師だ。

「そうだ!折角の時間なんだから三人で何かしましょ!このままなにもしないよりもずっと・・・」


「馬鹿馬鹿しい」



言い捨てたのは、俺だ。
嗚呼、本当に馬鹿馬鹿しい。その偽善に満ちた発言も、傷ついたような面も、何もかも。


「・・・何でそんなこと言うの」


プルプルと少女の体が震える。泣く予兆だろうか?しかし、俺には関係ない。


「今更馴れ合ってなんになる?希望が生まれるとでも?ハッ、糞だな。だったらメガネの言う“死んで当然の奴等”とやってやれよ」

「ッ、ふざけないで!そんなことできるわけないでしょう!」

「テメェこそふざけたことぬかしてんじゃねぇ!!」


苛立ちのあまり無機質な壁を殴り付ける。全てが腕の痛みとなって自分に帰ってきて余計腹が立った。

ムカつく。

偽善者な女に。
無機質な部屋に。
閉じ込めた馬鹿に。
俺を、生かした世界に。



「綺麗事しか並べられねぇお人形さんに、俺達の気持ちを好き勝手されてたまるかよっ!!」


ドンッと女を突き飛ばし、部屋を出る。
行ける場所なんてあてがわれた自室のみなのに、早足で廊下を進んだ。

延々と続いてるかのよう錯覚してしまう、白しかない施設。何にも染まってない場所。
そんな牢獄に俺の全てを否定されているような気がして、力任せに床を蹴った。

小さな傷すら、その床には残らなかった。





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