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生き残った世代2



「・・・勝手に、決めつけないでよ」

柄の悪い少年が去った部屋で、私は突き飛ばされて痛む箇所を抑えた。



ふざけた綺麗事。
綺麗事を並べるお人形。

そんなんじゃない。
私はそんなものじゃない。

ただ、この陰鬱な空気のままじゃどこにも進めないから。
閉じ込められた世界で気が狂ってしまうから。

ただの、気晴らし程度の提案だった。


なのに、全てを否定された。


あの日のように。



「何で・・・!何でみんなみんな・・・違うの・・・?」


ほんの数ヵ月前まで、私は楽しく学校に通う女子高生の一人だった。
けれど、みんなの雰囲気に違和感がでだして。
だけど、私はそれに触れようとはしなかった。深く踏み込もうと思わなかった。

何か新しい流行でもできたのかな?とか、もっと騒ぎ出したら仲間にいれてもらおう、なんて思ってた。


あの日、目の前で仲間外れにされるまでは。




ああ、どうしてみんな窓を目指したんだろう。

どうしてみんな、体を押し合ってるんだろう。

どうしてみんな、躊躇なく空に体を投げ出して行ったんだろう。


彼等には羽なんて生えていないのに。みんなみんな、身体を宙へ踊らせて、引力に逆らえず落ちていく。
聞いたことのないような落下音がひとつ、ふたつ、みっつよっついつつむっつななつやっつここのつとお・・・数えきれないほど鳴り響いて。

教室に残る私を、最後のクラスメイトが飛び出す寸前笑った。




きっとあれは、私を誘っていたのだ。
現に私も吸い寄せられるように窓のサッシに手をかけた。


でも、飛べなかった。

だって知ってるもの。私に羽は生えてない。
彼らを引き付けた何かを、私だけ持っていない。


私は、死にたくなかった。


だから生き残った。
当然だ。死ぬ気なんて微塵もないんだから。


なのに、現実は?



死にたかった人がいる。

生死に関心をもたない人がいる。


私だけ、生に執着して、だけどそれが異端のように否定される。



生きちゃダメなの?

死んだ方がいいの?

どうして私は違ったの?

みんなと同じなら良かったの?



膝から勝手に力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
涙がボロボロと頬を伝って落ちていく。


「・・・勝手よ。みんな勝手・・・勝手じゃない・・・!・・・生きて悪いの?・・・死ねなかったのが・・・悪いの・・・!?」


あの日、笑顔を向けたクラスメイトはまだきっと笑ってる。
こっちにおいでと笑ってるんだ。



+++

まるで伝染病のようだ。

手元の本はもう読んでない。僕はただ目の前の他人を観察していた。


少子化。
企業の機械化。
人員の大幅削減。
学生の就職難。

今の時代は、若い世代に優しくない。
だというのに、学校は温室のように子どもを困難から遠ざける。そうやって横暴に育った奴等を、誰が雇うだろう?
就職確率が下がれば、次の世代が希望を無くす。
それが加速して、加速して、幼いうちに夢を絶つ。そもそも、夢なんて持たなくなる。

辛い現実に夢を持つなんて、カッコ悪いから。

現実主義に固まって、悲観しかできなくなる。



そして、誰かが起爆スイッチを押した。
そしたらどうだろう。
みんなみんな死んでった。誰かに協調して、命を絶った。
まるで、愚かな群れがリーダーの命令に従うように。


生き残ったのは群れに所属してないものや、不本意で死にきれなかった奴。

この施設はそれが2:1で存在してる。だけど、本当の僕はどっちつかずだから、実際は1:1。
そして今、それが崩れかけている。


死にきれなかった奴は病原体だから。
彼女はそれに感染してしまった。


だって彼女にとって、ここは負が多数決で勝ってるから。無意識の多数決。立場が弱い方が排される。この国の特徴。


さぁ、ここは希望がなくなった。


馬鹿な大人は、どこまで傍観を決め込むのか。
読んでない本のページをめくりながら僕は小さく笑んだ。




+++

○小塚知也・16歳
保護場所:技術室
集団自殺者の一人。彫刻刀で手首を切り自殺しようとしたが、搬送先の医師の懸命な処置により一命をとりとめる。
事件の重要参考人であり、最重要保護対象者である。

○萩原紗香・14歳
保護場所:教室
集団自殺回避者。飛び降り自殺の現場で気絶しているところを保護。精神にダメージを受けている可能性あり。最重要保護対象者。

○光井圭・15歳
保護場所:図書館
集団自殺回避者。クラス内で虐めにあっていたとされ、独りで図書館にいるところを保護。集団自殺と虐めに因果性がないことの証明にもなった。

++++++
自分もそうですがメンタル面が弱くなっているんだとちょっと思います。
ついでに夢もないから希望をなかなか持てない。

こんなこと何かの弾みに起きたら怖い。でも起きそうだから怖い。

命、大事。何よりも。

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