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救われた思い出
僕が人に怯えるようになったのは中学に上がってから。
人に助けてもらったのは、高校一年のとき。
幼い頃から僕は男子にしては軟弱で、運動が苦手だった。かけっこはビリケツ、よくすっ転んでは怪我をした。
だけどあの頃は周りと普通に打ち解けて、毎日楽しく過ごせていた。
転機は小学校卒業後、父の転勤で引っ越さなくてはいけなくなったこと。
僕より八つ下の妹の真奈はまだ幼くて、すんなり周囲に溶け込んだ。
だけど、僕は上手くいかなくて。
エスカレーター式に中学にあがった皆の中で異質な僕は、周囲から除け者にされた。その内叩かれたり、からかわれるという小さないじめも始まって。
人が怖くなった。
いじめられ始めた僕が思い付いた対処法は、とにかく勉強すること。成績を上げれば、先生が少なからず気にかけてくれる。僕はそれを自分の盾にした。
徐々に今までのいじめは沈静化していった。けれど、今度は盾の武器にした勉強をネタにからかってくる人が出てきた。
そればかりはどうしようもなくて、僕は無視することに決め込んだ。棘のある言葉も、耳を塞いで耐えた。
高校は人の少ないところにしよう。そう考えた。
意外にもその高校は近場にあった。進学校ゆえに競争率が高いそうで、努力を嫌う人達は隣町の学校に流れるようだ。
僕はその学校に通うことを決めた。幸い、学力はそれなりになっていたので、手を抜きさえしなければ合格できる可能性は高かった。近いこともあって両親の反対もなく、受験して、合格した。
高校に入学して良かったことは、また人を好きになれたことだ。
僕は彼のお陰で、もう一度人を好きなれた。
萩翔希
高校でもからかいの標的になっていた僕を初めて助けてくれた人。
庇われた文化祭準備の日から、萩はしょっちゅう話しかけてきた。
最初はなかなか言葉を紡げなかった僕も、何回も何回も話しかけられる内に言葉を返せるようになった。
萩は面白い人だった。
底抜けに明るくて、表情がコロコロ変わる。髪の色で苦手意識を持っていたけど、意外にも真面目でハキハキしてる。
あと止まることを知らない。話してるとき頬杖つくとか、かと思えば髪をいじり出したり、話に合わせて手を動かしたりと忙しない。でも楽しそうだ。
それと友好関係も広くて、萩を通じて僕にも何人か知り合いもできた。
萩は不思議な人だった。彼に似た明るい雰囲気の友達もいれば、僕みたいな人と話すのが苦手なタイプにも知り合いが多いし、不良みたいな人にも臆さず話しかけてる。
苦手なタイプがいないのかな?
先生ともよく話している姿を見る。
すごく社交的なんだろうな。
でも、なぜこんなに僕に構ってくれるのかよく分からなかった。
「平ー!一緒に帰ろうぜー!」
今まで話してた人達と分かれてこちらに歩いてくる萩。萩と話してた彼らは次々と教室を出ていく。
「みんなと帰らないの?」
ポツリと思ったことを呟いただけだった。なのに萩はすごく悲しそうな顔をして、僕はギョッとした。
「な・・・なに?」
「平は俺と帰るの嫌だったりするの?」
「え?え?」
「嫌?」
あからさまにしょんぼりしている萩に僕は困惑した。
どうしてそんな顔するの?
だって僕なんて暗くて話も下手で、一緒にいてもつまらないでしょう?
みんなと話してた方が楽しいんじゃないの?
ねぇ、こんな僕といて何が楽しいの?
「ん〜全部かな」
へらりと笑った萩が言う。
「平ってさぁ、みんなとはちょっと違うんだよね。なんだろう・・・一緒にいると楽っていうか、落ち着く?話してるとなんか新鮮っていうか・・・満足するんだよね。不思議なことに」
何と返せばいいのか分からなくてポカンと口を開けて固まってしまった。
そんな風に思われてたなんて夢にも見てなくて。だけど萩の表情から嘘ではないことが分かるから余計頭がぐるぐるした。
「要するに、オレは平と一緒にいるの自然体でいれるっていうか、楽しんだよ!まぁ・・・平が嫌なら自重するけど」
眉を下げて寂しげに言う萩に、僕は首を振った。未だ頭は混乱してるけど、萩と一緒にいることを不快に思ったことは一度もない。むしろ救われている。
そんな旨を伝えると、今度は満面の笑顔を浮かべた萩に抱きつかれた。
スキンシップは昔から好きじゃないけど、これで友人に笑顔が戻るのなら、少しだけならいいかなと思った。
そうやって学校生活は流れて、三年には一緒に役員に選ばれた。
その頃には、僕は前より思ったことを話せるようになってて、からかわれることもなくなった。
新しい友達も増えたけど、やっぱり一番一緒にいたのは萩だった。
人を怖いと思わなくなった。
全部、全部萩のお陰だった。
ありがとう。
なんて恥ずかしい言葉、絶対口には出さないけど。
+++
平君のお話。
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