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普通校一年B組+α



祖父譲りの色素の薄いこの髪が、大嫌いだった。

四分の一、クォーター。そう呼ばれる人種のおれの髪の毛は日本人じゃ染めない限り有り得ない金色。これで地毛。


最初の内は周りから「綺麗」だの「羨ましい」などという言葉がかけられる。でも、最初の内だけ、物珍しいと感じる間だけ。
本来、おれは人と馴れ合うのがどうにも苦手で、無意識の内に遠ざける傾向にあるらしい。
だから、気づいたら周りに誰もいなかった。


普通高校(ここ)でだって、そうだと思ったんだ。



アイツの名を知るまでは。




「有賀って本当に綺麗な髪してるよね」


何の前触れもなしに、名前も知らないクラスメイトが話しかけてきたのはある休み時間だった。
その手の話題に辟易していたおれは初話を無視した。なのに、


「やっぱり。全然傷んでない。髪質も細そうなのに、なぁ?シャンプー何使ってるの?」

「はぁ?」


シャンプー?
今までの人生でおよそ使われない単語に思わず顔をあげた。


端正な顔立ちの軽そうな男子が、ヘラヘラ笑ってこちらを見ていた。


「ねぇってばー?」

「・・・メーカーなんて知らないし」


本当はそこで顔を逸らして終わりにするはずだった。
なのに、そいつは急にグイとこちらに顔を近づけたかと思うと、満面の笑みを溢した。



「あは。やっと口を聞いてくれた!ずっと待ってたんだぜ有賀テオ君」


栗色の瞳が面白そうに細められる。遠くで黄色い声が響いた気がしたが、生憎おれの聴覚は目の前の男の声以外を拾い忘れたらしい。


「俺の名前は樫原泰斗。やっとお前と知り合えた、今後よろしくする名前だからしっかり覚えてくれよな?」


そいつの声ばかり鮮明に再生した頭の中で、おれは目の前の男にどう反応しようか考え、拳を握りしめた。



やつのあだ名が「カシ」だと知るのは、そんな出会いから一週間後の話。



+++


「お前も変な奴だな」

苦笑混じりな声。

「佑十には言われたくないね」

べっと下を出して言い返す俺の顔を見て、従兄弟は渋面を作った。
自分と違って生真面目な彼を表したような癖のない黒髪が、首の動きに合わせてさらりと流れた。

「それはどういう意味だ泰斗?」
「言ったまんまだし。よくもまぁ好き好んで女に敷かれるなんて・・・俺には理解できないね」
「・・・あいつを話に巻き込むな」

はぁとわざとらしく溜め息を吐く佑十。しかし、それで誤魔化せたつもりなんだろうか?
残念だけど渋面がうって変わって、ニヤケを堪える顔になってるぞ。
このリアル充実野郎。


「マゾヒスト」
「俺はMじゃない」
「嘘だぁ」
「黙れ貴様」
「鞠亜嬢に乗られて歓喜の嵐が渦巻いてるくせに」
「渦巻いてない!それと、だからあいつを巻き込むな!」

あ、佑十の顔が赤くなってきた。素直だなぁ。
これが一つ年上なんだよなぁ・・・純粋だよなぁ・・・。

ちなみに鞠亜嬢というのはこの従兄弟の彼女。うち(高校)の高嶺の花として全校中にその顔が知れ渡っているほどの有名人だ。
そんな彼女と、この平凡な従兄弟がどうやって恋仲になったかは知らないが・・・きっと色々あったんだろう。
実際の鞠亜嬢は噂に違い、すごい性格でいらっしゃった。一応コイツがリードしてるっぽいが、攻守逆転してなくもない。

リバなんだろうな。鞠亜嬢。



「どうした泰斗?急に黙ったりして?」

俺が考えていることなど露知らず。自分より若干背の低い佑十が顔を覗き込んできた。さら、と髪が揺れる。

なにとなしにその黒髪に触れた。


「わっ!何だ?」
「佑十って髪柔らかいよな。リンスなに使ってる?」
「はい?リンス・・・なんて、あの昔からCMでやってるやつ・・・って泰斗の家も使ってるじゃないか」
「そーだっけ?」

首を傾げると呆れた眼差しを向けられた。佑十も表情の忙しい奴だ。


「そうかー、そうだっけー?」
「何だ?今日のお前、らしくないなぁ・・・熱ある?」
「ねぇし。変なのは認めるけど・・・うーん」

もう一度佑十の髪を触る。二度目になれば佑十も特に反応せず、俺の好きなようにさせてくれる。

短くて、柔らかい髪。
あぁだけど、アレに比べたら指を流れるサラサラ感が桁違いに異なる。




「うん。やっぱりテオの方が気持ちいいな」


は?と目を丸くする従兄弟を放って俺は内心満足して部屋に引っ込む。



「・・・変な奴だな??」

首を捻って、佑十は一人呟いた。




++++++
テオとカシのファーストコンタクト+初登場従兄弟の佑十(ゆうと)君:普通校二年生。
テオにとってカシはすごく変わったやつです。カシにとってテオはすごく面白い子です。

しかしカシの性格が定まらないな・・・!

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