ライン

構ってさん



「・・・絵これ終わったから」
「ん〜」
「絵・・・これ、頼むな」
「ん〜」
「絵、聞いてるか?」
「ん〜」


「うわぁww会長めっちゃあしらわれてやんのwww」
「お、おい萩!笑ったら失礼だろ!」

ケタケタと椅子から転げ落ちそうな勢いで笑う生徒会書記の萩。隣で生徒会会計の平がたしなめるが効果はまるでない。
俺はそんな萩をギロリと睨み付けながら、持っている資料を手でもてあそぶ。


この不快感も。

この退屈さも。

このやるせなさも、全ては正面に座る副生徒会長の絵が原因だった。





「かーいちょー♪今日は俺と一緒に遊びにいきませーん?」
「帰れ」
「はぁ、断られるのは目に見えてたんだからさっさと帰ろうよ萩・・・」

えーだの、あーだの言い重ねる萩に、二発ほど拳骨をいれながら、平に彼を引っ張って退出してもらう。


「それじゃ会長。今日もお疲れさまでした」


ペコリとお辞儀をして、生徒会室の扉が閉められる。



狭い部屋に、二人きり。


「絵」

自分の椅子に座り直して、別角度から絵に呼び掛ける。

「ん〜」

返ってくるのは生返事。
なぜか絵は一枚のプリントに目を向けたまま、小一時間ほどこの状態なのだ。何の資料なのか、三十分前に脇から覗いたが、それはなんてことない体育祭の資料だった。しかし、普段の絵なら小一時間も反応を返さないなんてことはしない。


仕方がない。


ギシリと寄りかかっていた椅子から立ち上がると、陽は絵の座る椅子の真後ろに立つ。そのままそっと手を伸ばそうとして・・・。


「出来たっ!」


大声を上げた絵に驚きそのまま静止した。
絵は上機嫌で手に持っていたプリントを机に下ろすと、椅子から立とうとし・・・たところで背後に立つ俺に気がついた。


「何してんの?」
「・・・お前が生返事しかしないから」
「え、そうだった?」
「そうだった。それで・・・」
「うんうん」
「・・・腹いせに目隠し妨害をしてやろうと」
「陽の考え付くことって大概子供っぽいな」


にへらと笑われたのが気に食わなくて、俺は静止した腕を当初の目的のために動かす。絵の瞳は簡単に手のひらの下に隠すことができた。なんだが堪らなくなって、絵の目を覆ったまま彼女の体を抱き寄せる。絵は椅子のギィと軋んだ音を立てながら、慌てて暴れだした。


「ちょ・・・!お前ここ生徒会し・・・」
「萩と平ならもう帰ったぞ」
「え・・・?マジ?」


他人がいないことが分かると絵から抵抗がなくなる。呆れ半分、そんな絵が可愛くて彼女の髪に顔を埋めた。よく知った香りが鼻腔を抜けていく。暫く俺は絵の温もりと香りを楽しんだ。



「ところでさ。この目隠しいつまでしてるんだ?」
「・・・お前がちゃんと俺を見るまで」
「・・・・・・フフッ!よ・・・何言うと思えば。これじゃあ見るに見れないじゃん」

クスクスと笑いながら「一度外して」と言ってくる絵。俺はしぶしぶ手を離しながら体を移動させ、今度は真正面から両手で絵の顔を覆う。
瞳と瞳をぶつけ合いながら、そっと絵の手が俺の手にそえられた。


「ホラ、わたしは陽しか見てないよ」


ふわりと微笑む、少年と偽る皮を脱いだ少女が優しく言葉を紡いだ。小さな白い手が俺の髪をゆっくりと撫でる。
俺は目を閉じて絵の肩に額を預けた。ぎゅっと優しく抱き締められる。



「・・・俺の方がずっとお前しか見てないよ」


耳元に囁けば小さな体が恥ずかしそうに身動ぐ。
愛しい姿に口許を緩ませながら、さっきまでの不快感を頭のゴミ箱に捨てた。


「絵・・・」

初めて“恋”をし、“愛”する彼女の体を抱き締める。

俺の傷を包み込んでくれた、ずっと一緒にいたいと願いたくなる存在。

彼女を副会長に推したのだって、近くに置いておきたいという俺のエゴだ。それなのに絵は、表面で文句を言いながら我儘を聞いてくれる。


『いつもおれが迷惑かけてるしさ』


絵はお互い様だと言うが、そんなことはない。むしろ彼女からの負担はないに等しい。
もっと迷惑をかけられてもいい。もっと絵から俺に甘えてきてほしい。そんな想いが募る。


「絵・・・」
「なに?もう・・・さっきからくすぐったいんだけど」
「・・・・・・好きだ」

捩らせていた体がピタリと固まる。髪をかき分けたら、真っ赤に色づいた耳が姿を覗かせた。
もぞもぞと体を動かして、絵がより密着してくる。小さな吐息が耳元に聞こえたと思ったら、蚊の鳴くような声で「わたし、も・・・」という返事がきた。

少しだけ体を離して、顔を真っ赤にした絵に微笑みかける。そのまま滑らかな額にキスをした。





君という許容に溺れる。





(で?何を見てたんだ?)
(ああ、ひーくんが提出プリントに書いた問題を解いてたんだ。面白いぞ?)
(・・・燈織)



++++++
構ってさんな陽と絵がイチャイチャする話を書きたかったのです。
まだ平がキャラとして出来上がってない頃のなので喋り方が・・・。

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