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分かり合えること
「人は真逆の立場の人間の立場を理解することはできない」
楽しそうに目を細めて微笑する君は、私の正面に座って語り出す。
私はそれに真っ直ぐと君を見つめて耳を傾けていた。
「例えば、学校とかでよく別れる“いじめる側”と“いじめられる側”。
いじめる側はいじめられる側の苦痛なんて知る筈もないし、いじめられる側にはいじめる側の気持ちなんて分かるわけない」
「他にも貧富の差でだってそうだよね。
“貧しい人”は富める人の周囲からの重圧とか、苦悩なんて理解できないし、“富める人”は貧しい人の辛さや、飢餓感を味わうことはない」
「完全に相反する者の思考が一致することなんて絶対に有り得ない。
そもそも、同じ環境にあっても役職が違うだけで反発するような生き物なんだから。立場の差が広がれば広がるほど分かり合えないなんて当然の話だね」
『それでも・・・』
私は初めて口を開いた。
『それでも人と人は手を取り合ってるよ』
「そんなの、言うなれば利害の一致ってやつさ。どこか一ヶ所だけ何らかの形で似かよってるってだけの話。腹の内では異なる考えを抱いているのが関の山だよ」
『そうなのかもしれないね・・・でも、一端でも、一端だけでも通じれば人と人は手を繋ぐ。分かり合えない立場同士だとしても、どこかで必ず分かち合える所があったりするよ。そして、手を繋げるの』
「・・・でも、それも結局さ、ほんの一部分が通じたに過ぎないよ。この世に、完全に自分と理解し合える人なんて存在しないんだ」
『いるよ』
『存在してるよ』
『自分を完全に理解して、受け入れてくれる人はいるよ』
『それはね、“自分自身”。
君の思いも、君の考えも、君の行動も、君の立場も、何かもかも全部理解してくれている自身。誰にでもある“自分自身”。泣きたい時に「泣いていいよ」って、楽しい時に「楽しんでいいよ」って肯定してくれる。自分のために。
笑いたい時に「笑っちゃダメ」、怒りたい時に「怒っちゃダメ」って止めるのだって、全部全部自分のため。
そうやって一番近くで、一番一人を思って、受け入れてくれるのは自分自身。でしょ?』
首を傾げて訪ねれば、君は呆れたように首を振る。
そして一緒に滴がポタリと零れ落ちた。
ポタリ、ポタリと頬を滑っては落ちていく。
私も一緒に泣いていた。
その時確かに、君と私は一端を共有していたんだ。
そうやって人は繋がって、寂しい“自分自身”だけの世界を広げていく。
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人と人とが理解し合えないことと、人と人とが繋がることのお話。
+++
「でも結局さ、人は完全に分かり合えないんだよ」
「例え自分自身が全て受け入れてくれるとするけど、ならば何故人は自分が思ってもないようなことを犯してしまうんだろうね?」
「簡単な話さ、“自分を信じられないから”」
「それじゃあ自分を受け入れてくれる自身がいたって意味もないね」
「それに知ってるかい?人間は“自分と全く同じ性質の者”を一番拒絶するんだよ。
全ては自分を“唯一無二”にするために、自分と全く同じ別の自分がいれば、真っ先に自分で自分を殺すのが人間って生き物」
「結局さ、“孤独になりたくない”なんて叶わない。人は自分で自分を孤独に追い込んでるんだもの。
“死ぬ時は独り”って当然の話だよね。死ぬ時一緒にいる自分自身は、一緒に死んではくれないもの」
私は睫毛を震わせながら目を閉じた。
君は楽しそうに目を細めて微笑した。
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ハッピーエンドにはバッドエンドがつきものなのも、当たり前。
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