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女男子生徒A-7
「・・・そういえばお前、俺の兄貴覚えてる?」
珍しい陽からの振りに一瞬きょとんとしてしまった。
「・・・あ、ああ!この間のあの人な、確か・・・健さん、だっけ?」
「あってる・・・けど、気にならないのか?」
「何が?」
「・・・名字」
また珍しく目を僅かに逸らして、ボソボソと話す陽の姿に合点がいった。
「えっと、それってお前が“高内”なのに、お兄さんが確か・・・“時遠”って言ってたことが気にならないのかって話?」
こくり、と陽が頷く。どうやら向こうはこちらが何も気にしていないのが訝しいらしい。
さて・・・どう答えたものか。
「そりゃあちょっとは気になったけどさ、陽はお兄さんと楽しそうに話してたし、別に聞くことでもないかなーとか思ったから」
「別に・・・か・・・」
あ、陽がショボンってなった。何だろう、「別に」って素っ気なく答えたのが気に入らなかったんだろうか。陽は気にしてほしいのか、うーん。
「まぁ、でも気にはなったよ?あれー何でかなーって、うん」
「・・・なら聞けばいい」
ショボンとしたままチラリとこちらを見てくる。これはもう、あれかな、説明しないと理由話せないな。
「・・・ちょっと話ずれていい?」
陽が不思議そうな表情でこちらに向き直る。絵はふぅと一息吐きながら言葉を紡いだ。
「陽に話を聞かなかったのはさ、聞いちゃいけないと思ったからなんだ」
「・・・悪いことだと?」
「うーん・・・そうじゃなくて、人の事は詮索しない方がいいって癖がついてたからかな」
「・・・癖?」
なんだそれ?と瞳が訴えてくる。それはそうだ。普通なら申し訳程度に詮索しないくらいで、本当に深刻そうでもなければ気を使ったりはしない。
それが、“癖”。それは、
「おれさ、孤児院で育ったんだ」
陽が小さく目を見開く。そりゃそうだ。今のご時世、孤児って多くはないし、普通はそう会うこともないだろう。でも確かに絵は孤児で、親なんてものは知らずに育った。
「おれがいた所はさ、生まれつき親を知らない奴より、親を知りながら捨てられた子が多くて、そんな奴に無闇に過去なんて聞いたら辛くなって泣いたり怒ったりするんだ。だったら最初から聞かなきゃいいっていうのが暗黙のルール。話したくなれば向こうから話してくれるだろう、だから詮索しないで心を開いてくれるのを待とう。それが染み付いてるわけ」
絵としては特に苦もなく話したつもりだが、陽の表情がみるみる曇っていく。やっぱり話さない方が良かっただろうか?だけど、自分を陽に少しでも知ってもらいたい気持ちが言葉を紡がせた。
「・・・悪い」
だから、陽が罪悪感を感じるなら、それは間違ってる。
「謝らなくていいよ。これはおれが話したくて話したことなんだから。もし、陽が無理矢理喋らせたんじゃないかとか考えてるなら思いっきり思考が逆だぞ?」
自分なりのとびきりの笑顔で陽の姿を笑う。
そう、これがおれだから。
大体、一番隠したい事実は「女であることを隠してる」ことなのだ。それを知られている陽に、何を隠すことがあるんだろう?
だから、おれは私を隠さないことに躊躇しない。これが“渋澤絵”という人間。
「だからさ、おれは相手の“話したくて話した”ことしか聞かないよ。良くも悪くもそう育ったから。だから、陽とお兄さんのことも陽が話してくれるなら聞くし、言いたくないことなら聞かない」
ジッと陽の瞳を見つめる。まだ少しだけ戸惑うように揺れているけど、真っ直ぐにこちらを見返してくれる。話は、きっと通じたようだ。
「・・・俺の話を、聞いてくれるか?」
小さく、けれど瞳は真っ直ぐこちらに向けながらの陽の問い。
こくりと首の動きで同意を示せば、彼は静かに彼の“話したいこと”を語りだした。
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