ライン

女男子生徒A-6




「もう衣替えの季節か・・・早いもんだな」

自分の席で伸びをしながらポツリと呟く。そうしながら教室を見回すと、黒の学校指定ブレザーに交じって白のYシャツが見られた。



「・・・・・・」

前の席の椅子に無断で陽が座る。別に席の主はそれを気にしてないからよかったが、今の陽はどことなく機嫌が悪そうだ。

「・・・どした?」

おそるおそる聞けば「うぜぇ・・・」と疲れたような声が返ってきた。
ちら、と陽の席を見てみれば数人の生徒。全員が一様にこちらを伺っている。

彼等は「高内豹変事件」からできた取り巻きの皆さんで、何かにつけて陽に接触しようと試みている。もちろん、自分の容姿に自覚のない当人は迷惑極まりないらしく、ここ最近はこんな風に機嫌が悪いことが多々ある。

正直、おれにはよくわからないな。

どうして彼等はそこまで陽を追っかけるんだろう?物珍しくてなら、三日ぐらいで沈静しそうなもんだけど、彼等からはそんな気配が一切ない。

人気になるってそういうこと?

それとも、本来なら追っかけたい存在である女子が一人もいないせい?

だから、陽がその代わり?それもなんだか変な話だけど。

結局、彼等の気持ちがよく分からないまま、とりあえずは不機嫌に項垂れた陽を慰めることを優先した。


+++

放課後。
テスト期間は終わったが、引き続き陽とは勉強会をしていた。
勉強なんていくらやっても損になることはないし、勉強そっちのけで駄弁ることもある。要するに、放課後には陽と一緒にいるというパターンが出来上がってるわけだ。


「・・・お前これどう思う?」
「んー?なになに・・・『屋台のメニューアンケート』・・・って、これクラス全員に聞くやつじゃね?」
「・・・だから聞いてる」
「おいおい、真面目に仕事しろよ」
「・・・だからしてる」

はぁ、と溜め息を吐いた。
こいつが「クラス全員」に聞くべきアンケートを実際にHRで聞いた姿は見たことない。じゃあどうするか?

全部、おれが答えたことだけを書いている。

確かにおれはクラスの一員だし、その意見を書いているわけだからちゃんと仕事はしてるだろうが・・・これがクラス長で大丈夫なんだろうか?という不安を抱かずにはいられない。


「陽さぁ・・・こういうの聞くのが嫌なら、副長にでも協力してもらうとかしろよ」
「・・・別に嫌じゃない。ただ、面倒だ」
「なら副長にやらせろよ。頼むくらいは面倒じゃないだろ?」
「・・・なぁ、絵」
「なんだ?」

「・・・副クラス長って誰だ」


椅子から転げ落ちそうになった。


「おまっ・・・まさか小坂井って言って分からないとか・・・?」
「誰だソイツ?」
「お前の斜め前の席に座ってるよ!生徒会の時に顔ぐらい会わせてるだろ!」
「・・・・・・どんな顔だっけ?」
「バカか!?」


色々に無関心な人間だとは分かっていた。しかし、ここまで重症だとは思いもしなかった。本当に。
高校生活が始まって既に2ヶ月過ぎた。深く刻まれた第一印象のせいで、友人作りに難航してる絵ですら、クラスの人間の顔と名前はある程度覚えたというのに。


「コホンッ・・・陽くん。少しばかり質問してもよろしいか?」
「・・・どうした?変な話し方をして」
「えーっと・・・“爽やか番長”の異名を持つ結城は分かるか?」
「なんだその奇妙な異名は、知らん」
「・・・“物知り眼鏡”の田中は?」
「眼鏡・・・誰だ?」
「っ・・・こ、小坂井・・・」
「ああ・・・顔は知らない副長だったな」
「顔は知らないとか言うな!なんか不憫だ!
お前の知ってるクラスメイトの名前をあげてみろ!全部!」
「絵と・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まさかのおれだけっ!?どんだけコミュ障!?」

愕然と陽の姿を見つめる。最早コイツはクラスに馴染むという行為を放棄してるとしか思えない。
いや、隠したいことがあるから、そこまで人と関わりを持ちたくないというものかもしれない。


「だとしても・・・関わらなさすぎだろ」
「・・・特に困ることもないから、問題ない」
「いやいや、お前がよくても問題有りすぎだと思うな。てかさ、そんなんでよくおれに話しかけてきたよなぁ。てか、よくおれの名前を知ってて」
「・・・別に覚える気がないだけで、苦手な訳じゃないぞ」
「なら気を起こせ」


口では言うものの、陽が自分に興味を持ってくれて良かったと思った。だって、この調子なら興味を持たれなければ、こうやって一緒に話すこともなかったんだから。


「絵だけだったからな」


何が、と聞くまでもなくて。


「クラスの中で、似た雰囲気を持ってたのは、絵だけだったから。だから」


じっとこちらを見つめてくる瞳。そっかと呟き、なんとなく目を逸らしたら陽が笑った気配がした。
ちょっと負けた気がした。




- 189 -


[*前] | [次#]
ページ:





戻る







ライン
メインに戻る