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女男子生徒A-5





カチカチカチカチ・・・。

時計の音が部屋に響く中、絵は部屋のほぼ中心に正座になっていた。

部屋の主の高内陽氏は入浴中。



今、おれはどうあるべきだろう。


何せ「友人宅に遊びに行く」という経験がからっきしな絵。
友人が不在の時にどう時間を潰せばいいのか考えあぐねていた。


リラックスしてていいのか?
いや、初めてお邪魔した人の部屋でだらけるとか許されるものではない気がする。
ならばとかしこまっているのが現在だが、そろそろ足が痺れて苦しい。
というか、今日はご飯をいただくだけに来たんだから、もう帰ったっていいはず。
しかし、陽はわざわざ声をかけていった。ならば待っていなければ失礼な気がする。



そんな風に正座のまま考え続けて数分。


「ふぎゅう・・・」
「・・・どうかしたのか?」
「あ、足が・・・ちょっと」
「・・・?」

足の痺れで崩れ落ちているところで陽は戻ってきた。

「・・・てか、律儀に待ってるのなお前」
「だって陽、声かけて行ったから待ってた方がいいかな〜って・・・・・・!」

痺れた足を擦りつつ頭だけ陽を振り返って・・・すぐに逸らした。
その様子に陽は不思議そうな眼差しを絵に向ける。


「・・・どうした?」
「ぃや!あ、べべべっつにぃ〜・・・」

挙動不審気味な絵の顔を陽は覗き込んでくる。
そうすれば嫌でも視界に入ってくる姿に、また別の方向に顔を逸らす。

「・・・本当にどうした?・・・顔に何かついてる?」
「ついては、ないけどさ・・・うわぁ!覗くな!」
「・・・何で?」
「う・・・ぅ・・・」

じわじわと顔が熱くなるのを感じる。ポタリと小さな雫が床に落ちた。

「・・・絵?」

じっと純粋な瞳で見つめてくる陽の頬は仄かに赤い。それが、頑張って保っていた精神ををプツンと切った。



「ふぅ・・・ふ、服を着ろぉぉーーーー!!」



ビリビリと部屋を震わせるほどの大声量。真っ赤な顔で床に伏せたまま体を震わせた。
しかし、陽の方は意味が分からないと言いたげに眉を寄せる。


「・・・着てるじゃないか」
「タンクトップは下着!服を着てるって言わない!」


ビシッと人差し指を突きつけた。そして、つい見てしまった姿にまた目を逸らす。


陽の姿は本当に風呂上りですと知らしめるようなタンクトップに薄手のズボン。肩にはタオル。髪はまだしっとりと濡れており、体に溜まってるだろう熱で頬は上気している。
このスタイルが陽のいつもなんだろう。だが、これでも“花の乙女”たる絵には・・・刺激が強すぎるのだった。彼に自覚はないが顔も良いので尚更である。


「別にこのくらい・・・騒ぐほどじゃないだろう。・・・いちいち大袈裟なんだな」
「うるさいうるさい!本当に自覚がないって怖い。・・・てか頭拭けよ!風邪引くぞ!」
「こんなもんで引くほどやわじゃな・・・」
「ぐあー!いいから拭けっ!!」


こんな口論してる方が恥ずかしい!

もう半分やけのように陽からタオルを奪い、彼の頭をガシガシと拭く。


「おい・・・!」
「やわじゃなくたって引く時には引くの!いいから大人しくしろ!」


なるべく顔を見ないようにしながら丁寧に水分をとっていく。
たまに、くすぐったいのか体を捩る陽を叱咤しながら、髪の毛を拭き終えた。


「・・・お節介」
「言っとけ!こっちは何人もちび達の世話を見てたんだ!お節介にもなるってぇの!」
「・・・へぇ?」


陽の意外そうな声に、そういえば彼には自分の育ちを話したことないなぁなんて考える。
話そうか、とも思ったけどやめた。
きっと、たくさんの時間を陽と過ごすだろう思う。なら、話す機会だってこの先何回もあるかもしれないから。
今はまだ、いいや。


「さて、と・・・おれも風呂に入りたいし、そろそろ帰るか」

よいしょ、と立ち上がる。

「・・・帰るほどの距離かどうかは微妙だけどな」
「ははは、確かに」

玄関に向かえば半歩後ろを陽がついてくる。



「・・・絵」

靴を履いたところで呼び止められた。ラフすぎる格好で真っ直ぐにこちらを見ている陽。鎖骨や二の腕といった、普段見えないところが直で見れば逞しい男のそれで、絵はしたくなくても意識してしまう。
そんなの気づかれたくなくて、必死に平静を取り繕うなんて、何か変な気分。


「・・・なんだ?」
「今日は・・・久しぶりに楽しかった」


優しい口調で言いながら陽が微笑む。真っ直ぐこちらを見たままいつも通り、絵に向けて笑う。


「・・・また来いよ」
「ん、じゃあいつかお言葉に甘えて遊びに来させてもらうよ」
「・・・俺が行くのもいいか?」


少しだけ表情を変える陽。それが、まるで小さい子がお願いをしてきてるみたいでちょっとだけ笑った。





「いいよ。おれの方だっていつでも。
・・・またな」


ドアノブを捻り、小さく手を振って外へ出る。
扉が閉まるちょっと前に、陽は手をあげて答えてくれた。なんだかそれが無性にくすぐったかった。


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