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女男子生徒A-3




「わあ、やっぱり陽かぁ!すっげ奇遇だな!」


縁なし眼鏡をかけた青年は嬉しそうにこちらに近寄ってくる。

陽の・・・知り合い?

近くに来た眼鏡さんは穏やかそうな外見の割りに意外と背が高く、陽より数センチ大きく見える。
すらりと均整のとれた対格。キッチリとしたスーツ姿は典型的なサラリーマンを思わせた。


「・・・どうしたの、こんなとこで?」
「ん〜?俺は仕事間の休憩時間だよ。陽は何?半日授業?テストも終わったから嬉しいよな〜」


嬉しそうにそう言えば、眼鏡さんはごく自然に陽に手を伸ばす。そしてごく自然に頭をよしよしと撫で始めた。

絵はその現場に目を見開いた。頭ないし額は、陽にとって触られたくない場所だと絵は考えていた。
しかし、そこを眼鏡さんは何の気兼ねなく触れて、撫でている。陽の方もされるままで、何の反応も示さず、眼鏡さんの顔を見ている。
すごく・・・親しげだ。


「相変わらず柔らかい髪だな〜・・・あ!そういや陽はここに何か用事があるのか?」
「いや・・・・・・」

チラ、とこちらを見た陽とバッチリ目が合う。そりゃもうバッチリ。バッチリ過ぎて恥ずかしいくらいバッチリ。


「・・・こいつの付き添い」
「こい・・・?あれ?あれあれあれ??」


陽が絵を指したと同時にこちらを見た眼鏡さんは徐々に目を丸くする。そしてずいずいと顔を近づけてきた。案外顔がいい人なので微妙に焦る。


「もしかして・・・君、“渋澤絵”くん?」
「え?」

何でおれの名前を?

「えっと・・・そうです、けど・・・」
「君が!君が!!」

絵の肯定と一緒に眼鏡さんの顔がぱあぁぁと輝く。そして、音速のごとき早さで絵の手を握った。


「うわぁ!話は聞いてるよ絵くん!陽の“友達”なんだって?話に聞いて会いたいな〜とは思ったけど、まさかこんなに早くお目にかかれるなんて!」
「は・・・はあ」


まるで握手会で芸能人に感激するファンの様に、握った手をぶんぶん振る眼鏡さん。超ハイテンションで絵の顔を覗き込んでくるその頭を、


ガスッ!!


容赦ない速度と威力で陽の拳が炸裂する。

「グハッ!」

手加減の見られない一撃に倒れる眼鏡さん。あんまりいい音だったので困惑していた絵すら心配になる。


「ちょ、大丈夫ですか!?」
「・・・絵。心配する必要は微塵もないぞ」
「お前殴っといて薄情だね!?」
「ぐ・・・今のは、きいた・・・なあ・・・」

ふらふらと立ち上がる眼鏡さん。脳しんとうを起こしてないかが心配になる雰囲気だが、陽はけろっとしたまま彼に歩み寄る。


「・・・触るな」
「グスッ、酷いこの子・・・口より先に手が出るとか・・・短気はよくないぞ」
「黙れ・・・別に短気じゃない」

「あ、あの!二人は・・・知り合い、ですか?」


なんとなく置いてけぼり食らいそうなので、無理矢理間に入ってみる。
すると眼鏡さんはああと呟いてから、くすりと笑った。

「陽が紹介してよ。ホラ、俺は初対面なんだし」
「・・・チッ」


陽、お前今舌打ちを思いっきり口で言ったな?その人に聞こえるようわざと大音量で言ったな?

そんな絵の心の声も知るはずなく、陽は面倒臭そうに頭を掻くと顎で彼を指し、言った。


「・・・コイツ、兄貴」
「へ・・・?」
「初めまして。陽の兄貴の“時遠健”と言いまーす。よろしくね」

ふわりと笑う顔と、いつも通り口を引き結んだ無表情を交互に見る。

兄・・・弟!?



「にしても陽。兄ちゃんをコイツ呼ばわりは酷いじゃないか」
「・・・相応だろ」
「うっわ酷い!兄ちゃんお前をそんな風に育てた覚えはありませんよっ!」
「・・・勝手に言ってろ」

「兄弟・・・」


確かに人に無関心な陽にしては饒舌で、どことなく楽しんでるようにも見える。
それに、じっと観察すればところどころ似ているところがあった。


「・・・どうした絵?」
「ん?いやぁ、兄弟なんだなーと思って」
「ははは、遠目だと俺らあんまり似てないからね」

にこやかに笑い、再び顔を近づけてくるお兄さん。

「・・・うん。陽と本当に仲が良いみたいだし、安心した。絵くん、これからも陽をよろしくね?」
「え?あ、はい」

コクンと頷くと、陽にしたように自分も頭を撫でられた。陽の表情がピクリと動いたが、何かあるより早く健は二人から一歩下がる。

「それじゃ、俺まだ仕事あるから。今度会ったらゆっくりお話ししような絵くん!陽も“友達”を大切にするんだぞ!」

じゃと手を振りながら彼は早々と行き交う人の中に消える。
なんとなく陽の顔を覗いてみたら、ちょっとだけ寂しそうに見えた気がした。



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