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女男子生徒A-2




「次はその幼なじみに教えてもらったんだけど、なんでも大型店舗に対抗して破格の値段で食料品が買えるらしいんだ!」

ぐっと握り拳を固める絵に、陽は首を傾げる。それに気づいた絵がどうした?と尋ねると陽はいや、と頭を振りつつ聞いてきた。


「・・・お前って、自炊?」
「ああ、そういうことか。うん、そうだよ」


絵が住んでいる学生寮には個々にキッチンが備え付けてはあるが、一階の食堂に行けば別に自炊せずとも食には困らないのだ。それでも自炊を選んだのは単純に安上がりだからである。栄養バランスなんかは面倒であるが、奨学金で生きている絵はなるべく出費を抑えるられるだけ抑えたい。


「そういう陽は食堂派?」
「いや・・・俺も自炊」
「えぇ!?」

素っ頓狂な声をあげると、陽の眉が不服そうに僅かに歪む。

「・・・意外か?」
「い、意外・・・です。へー・・・料理するんだ」
「まあ・・・金なんていくらも出して貰えないし・・・」

ポツリと呟かれた言葉。聞いてはいけないことを聞いた気がして口をつぐむ。
それに気づいた陽は少し思案するように目を逸らすと、くっと陽の顔を覗き込んできた。

「・・・よかったら、今夜食いに来るか?」
「なにっ!?」

それはつまり。
ご馳走ってやつですか!?

「そ、そんな・・・悪いよ」
「別に・・・一人分も二人分も大差ないし」

あーだの、うーだの言い訳を考えたりしたが、せっかく陽がそう言ってくれてるし、断るのも気が引けた。

というわけで、今夜は陽の部屋にお邪魔する運びに決定した。





「・・・買ったな」
「買うよ。そりゃあ買いますとも!買いだめ万歳!」

買い物袋を両手に下げながら言う。くーちゃんの口コミ通り、小さな商店内の売り場は安売り天国だった。
近所のオバチャンと壮絶なバトルになったが、絵はまだ小さな体を駆使して獲物をゲットした。ちなみに陽はその脇で巻き込まれない位置をキープしつつ、たまに出る流れ弾を手に入れたらしい。


「んと・・・明日はとりあえずもやしで肉炒めとかかな・・・んでその次はキュウリを使って・・・はぁ、これでおれ一ヶ月は生きてけるな」
「・・・確かにな」

経済面で辛い絵は当然ながら、どうやら似た境遇らしい陽も心なしか満足そうな雰囲気である。


「安いってステキだな!」
「・・・何だその守銭奴な言い草は・・・まあ得はさせてもらったけど」


不意に陽の手がのびてきて絵の頬をむにとつまむ。なんだなんだと顔を覗けば優しそうに細められた陽の瞳と目があった。



「・・・誘ってくれてありがとな、絵」
「え・・・あ、う・・・」


不意打ちに思わずドキリと心臓が跳ねてしまう。
最近は馴れたお陰で全然なかった胸の高鳴りを上手く自制できない。むにむにと頬をつまむ手を払うこともできずに固まる。
面白いと言わんばかりに陽がくすりと笑んだ。それにもまた正直に心臓は跳び跳ねる。






「陽・・・?陽じゃないか?」


どこからか、小さいが確かにそんな声が聞こえてきた。陽の手が絵から離れる。


振り返った彼の向こう、驚くように目を丸くしている青年が少し離れたところからこちらを見ていた。


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