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女男子生徒A



「ふふふ、珍しいね。陽が他人について話すなんて」
「・・・そう、か?」
「そうだよ。それこそ十数年間で指折り数えれるほど無いかもね」
「・・・そう・・・かもしれない」
「だから、大切にするんだよ?そのお友達」


言われなくても、と答えようとしたら指が額に触れた。どこか嬉しそうに撫でるのは二本のヘアピン。


「俺もいつか会いたいなあ・・・その“渋澤絵”って子に」


くすりと笑んだ表情は昔から変わらず、どこまでも優しかった。



+++

ドキドキとうるさい鼓動を胸の上から抑えつつ、絵は深呼吸を繰り返す。
落ち着け・・・落ち着けと何度も念じ、意を決して顔を勢いよく上げた。





「・・・・・・うおっしやあぁぁぁぁぁ!!!!」


周囲の目を一気に引き寄せるほどの歓声が生徒昇降口に響き渡った。






「・・・だらしない顔」
「うるせぇ、今くらい幸せに浸からせろ」
「・・・首席防衛おめでとさん」

にへら、と相当だらしなくにやける。それを見て、絵の隣に立つ高内陽は呆れ半分のため息を吐いた。


「・・・一安心だろうが喜ぶのもほどほどに、な」
「わかってるよー・・・」


頬をこねくり、にやけた顔を無理矢理元に戻す。それでも肩の荷が降りたのは真実なので、とても気分が良い。


「今日って半日授業だよな?」
「ああ。確か・・・学祭前の会議と打ち合わせを一気にやるそうだ。ま・・・用があるのは重役員だけだろ・・・」
「へー詳しいな」
「・・・一応クラス長だしな」
「そうだったな・・・じゃあ陽はさ、今日暇?」
「暇・・・?」

不思議そうな目を向けられこくりと頷く。


「もし良かったらさ・・・ちょっと外に付き合ってくれないか?」






ガヤガヤと賑わう小さな商店街。新生活を始めてすぐくーちゃんが教えてくれた。くーちゃん曰く“ステキな場所”。なんでも通りの店の人は皆温かくて居心地がいいとのこと。
しかし、いざ一人で行くには勇気が必要なので誰かツレが欲しかった。
・・・で、現在。


「・・・賑やかだな」

隣の陽は特に感動味もない様子で辺りを見渡していた。

「・・・ここに用事?」
「用事っていうか、一度来てみたかったんだ。幼なじみが教えてくれてさ」
「・・・ふーん」

興味無さげに人の往来を眺める陽。
コイツ学校でもそうだけど結構色々に無関心だよな?
本当は嫌だったかななんて考えが頭をよぎる。だが、こうして付いてきてくれたので、ほんのちょっとだけ我が儘に付き合ってもらおうと思い、絵は近くの店を指差し彼に行こうと促した。


入ったのは小さな洋服店。大型店舗と違い揃えは少ないが、ところ狭しと並べられた商品の置き方には工夫があり、どれも目につきやすい。

二人はその中の紳士服、つまり男物の服が並んだ一角にいた。


「なあ、男の服の選ぶ基準って何だ?」
「・・・機動性」
「無駄にかっこいい言い方はしなくていいんだよ」

投げやりな返事につっこみつつ絵は唇をへの字に曲げた。

言わずもなが絵は生まれつき女である。
だが、男と偽らなければいけない今では、着る服も男物だ。しかしいかんせん、どんな服が自分に合うのかが全くわからない。


「こういうさ「かわいいなー」って思っちゃう服選んじゃ駄目かな?」
「・・・絵がいいならいいかもしれないが・・・それだと女っぽいぞ」
「ぐぅ・・・!」

そう言われて白と青の爽やかボーダーを元に戻す。いいなって思ったのに!

「・・・これは?」
「お・・・男らしく見えるけど、パンチききすぎだろ・・・」

陽が手に取ったのはどぎつい赤と黒にドクロマークがワンポイントのTシャツ。今にも笑いだしそうなドクロが地味に怖い。

「てかさ、それおれに似合うかな・・・?」
「・・・十中八九似合わん」
「似合わないのかよ!?だったらこれは?なんて言うな!」

どうやら陽は衣装センスがないらしい。その後も何だか個性的なものを持ってきたが全て却下した。

結局絵が何枚か服を選び、それから陽に「男に見える」ものを抜いてもらって、それを買うことにする。


「すいませーん」
「はいはい・・・お?君達男子校の子かい?珍しいね?」

そう言ってカウンターに立つのは人の良さそうな初老の男性。こちらを見て楽しそうに頬を緩ませている。

「あんまりうちの生徒は来ないんですか?」
「そうだねぇ。若い子達は大きい店に行く子が多いから。だからぜひともうちの店をご贔屓に。安くするよ〜」
「ホントですか?ありがとうございます」

手際よく手を動かしながらニコニコ笑う店主につられ、こちらも笑う。代金を払い終えて店から出る間際、店主は笑顔で見送ってくれながらこう言った。


「ありがとう!今度は隣の先輩くんもぜひ!」
「・・・先輩?!」


店の扉が閉まり、外の喧騒に包まれながら隣を見上げる。


「・・・どうした?」


本人は聞いてなかったらしい。陽より年下に見られたのに幾分かショックを受けながら、絵は次の店に向けて歩き出した。


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