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女男子生徒11
「・・・燃え尽きたぜ・・・真っ白にな」
「・・・そんなで残り三年持つのか?」
「うっせぇバーカ!初テストで緊張したんだよ!」
中間テストの終わり。前の席を借りて座る陽の小言に怒鳴りながら机に項垂れる。
こっちは燃え尽きてるんだから気を使え!
ちなみに前の席の住人はすんなりと陽に席を貸していた。どうもあの一件から「渋澤絵と高内陽は仲が良い」と広まったらしく、物珍しい視線を送られることはあるが一緒にいて疑問視されることはない。
それも助けて、陽は休み時間毎に絵のところに来るようになった。まあ、「高内豹変事件」以来人に囲まれて面倒なので、半ば絵のとこに逃げてきているということでもあるらしい。
絵には「口を出せば手が返ってくる」という噂があるようで、二人でいるときは人がよってこない。
その代わりとばかり視線攻撃がすごいが、慣れてきた。
項垂れた絵の頭を陽が労うようにポンポンと叩いてくる。その自然な距離に慣れてきたのも、最近の話だった。
あの日、陽の行動に真っ白になった絵ではあったが、予想に反してその後は特に何もなく体を離し。数分ほど駄弁って彼は帰っていった。
それからはこうやって他愛もない会話をして、たまに手が出る程度。
「・・・学年首席、取らないと何だっけ?」
「その通りでーす・・・」
「・・・大丈夫だろ。お前は頭いいんだし」
「よくなーい・・・」
うだうだと頭を机に擦り付ける絵をぺしぺしと叩いて労う陽。
自然な距離、自然な会話、自然な態度。
ドキマギすることも、声が裏返ることも、変な空気になることもない。気を張る必要もないこの時間帯に、絵の心はとても安らいでいた。
この何気ない時間が、大好きだった。
+++
掌の下で緩んだ表情をしている相手に、思わず笑みが漏れそうになる。でも笑わない。今は教室に人が多すぎる。
始めはただの興味だった。
相手に壁を作るような頑なな対応。なのにその後自分の席で落ち込むちぐはぐな態度。
人が嫌いな様子はない。人から何かを守るような雰囲気。隠し事。
自分とどこか似ている。
だから興味を持った。
話しかけたとき、あそこまで素直に近くに来たことには驚いた。本来はそういう性格なんだろう。面倒な生徒会の話にも付き合ってくれた。
勉強を教えろだなんて、自分でも言ったことに驚いた。
しかし、化学がよく分からなかったのは事実だったし、相手は最初たどたどしくも、分かりやすく教えてくれた。
いつからか一緒に居ることに安心を覚えた。
他人にこんな感情を抱くのは初めてで、どこかこそばゆい。けれど不快のない感情。
自分のことを話すのにさして抵抗はなかった。
この傷を見て苦い顔になる姿は嫌なほど見慣れていたから。それにこいつならば人に話すことはないという信頼があった。
だから、それなりに受け入れてくれるだろうと。
けど、結果は斜め上。
渡されたのは二本のヘアピン。
障害の無くなった視界に満足そうに笑う相手を見て、珍しくこちらも笑いたくなった。
翌日からのクラスの反応には大分困ったが、その心情を相手も理解していてくれたのが嬉しかった。
その日の放課後に、明かされた相手の隠し事。
確かに細い身体だとは思ったが、まさか女だとは思わなかった。
それだけ堂々としていたから。
けれど、真っ赤な顔で大人しく頭を撫でられている姿は少女のものに見えた。
そして知った、相手の隠し事を知っている生徒は自分だけだと。
嬉しかった。その信頼が純粋に。
気づけば頬が緩んでいて、それが理由(?)でやたらめちゃくちゃなことを言われてしまったが、それがなんとも面白い。
あんな提案をしたのは、隣にいたいと思ったから。
不思議なことに、今までさして抱いたことのない欲が胸に生まれた。
どんな形でも良い、ただ俺一人に許された関係で隣にいたいと思った。
断られてしまいはしたが“友達”として傍にいることは許された。
その夜助けたのは、隣にいる口実を作りたかったから。
腕を伸ばしたのは触れてみたいと思ったから。
抱き締めたのはなぜかそうしたいと思ったから。
どうも渋澤絵と一緒にいると俺は俺でなくなるらしい。
こうして頭に触れている今でも、様々な欲が胸の内に湧いている。
こうしたらどうなるのか、それを見たくて仕方ない。
けれど、どこかで好きに触れれば傷つけるかもしれないという恐れもあった。
「・・・だから今はこの距離で良い」
「ん〜・・・?何か言ったか陽?」
もぞりと体を起こし、どこか眠たげな瞳でこちらを見る姿に何でもないと首を振る。
首を傾げながら、それでも睡魔に襲われてるのか再び机に伏せる絵。
また、その柔らかい髪に触れた。
心の奥底が温かくなった。
+++
ここでひとまず一区切り。絵と陽が仲良くなるまでの話でした。
まだ続きます。
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