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女男子生徒10
「・・・危なっかしいな」
やれやれと溜め息を吐き、支えてくれたらしい腕がギュッと体を包んでいる。
抱き抱えられている。
そう頭が認知すれば羞恥に体が震える。自分とは違う体温にクラリとした。
「よ・・・離し・・・」
「・・・たら、お前はまた暴れるだろ」
「そんなことない」
「・・・有りそうだがな」
ぐっと力の込められた腕に、放課後の真剣な表情が頭に浮かぶ。
あり得ない。
違う。
絶対に違う。
プルルルル・・・。
部屋に無機質な柔らかい音が響く。
「電話・・・・・・」
これはチャンスと勢いよく陽の腕から逃げる。
まだドキドキとうるさい心臓を抑えながら、絵は特定の人間からしかかかってこない電話をとった。
「もしも・・・」
『かいちゃーん!!どゆことー!?』
くーちゃんの甲高い声が耳に突き刺さった。
「くーちゃ・・・声おっきい・・・」
『これが叫ばずにいられますかっ!さーちゃんから聞いたよ!告られたんだって?誰に!』
「だ・・・だから声が大きいって!」
背後で陽が動く気配がする。くーちゃんの大声量は受話器から駄々漏れなので、もしかしたら陽に聞こえてるかもしれない。慌ててくーちゃんを宥めにかかる。
「くーちゃん!あんたアパート住みでしょ!近隣に迷惑だからもちっと声を抑えなさい」
『じゃあじゃあ対価に説明を求むぅ!あたしにだけ話さないなんて承知しな・・・ぐすっ・・・だからぁ・・・』
「何で泣くの・・・!」
『だってぇ・・・!かいちゃんがあたしに話してくれないとか、お祝いする時逃しちゃうかもしれないじゃない!』
「なぜさーちゃんと同じことを言う」
『考えることは一緒だぁ!おらおら!さっさと吐きなさい!!』
「っ・・・い、今は」
陽がいるから駄目だ。
そう伝える前に、背中が温かい何かに触れた。ヒュッと息を呑む。
『・・・かいちゃん?どったの?』
こちらの変化が伝わったらしいくーちゃんが尋ねてくる。でもそんな声にすぐ返答するための余裕がない。
「ぁ・・・ごめ、くーちゃん・・・ちょっと。明日、掛け直、す・・・ね」
声が上擦るのを抑えるのが精一杯な途切れ途切れな言葉。それでも察してくれたくーちゃんは『分かった・・・お休みね』と言い、受話器からはツーツーという会話が切れた音のみ響く。
「・・・・・・た・・・よ、う?」
「・・・何だ?」
「なに・・・してん、の?」
「・・・スキンシップ?」
どうして疑問系なんだよという呟きは喉の奥に消えた。
ぐっと腹に回された腕に力が込もって体が震える。
おかしい。
何でこんなことされてるの?
「ね・・・陽・・・」
「・・・ん?」
「その、“友達”・・・だよな?」
「・・・ああ、“友達”だな」
くすっと嬉しそうな吐息が耳をくすぐる。
じゃあ何で二人の距離はこんなにも近いんだろう?
男同士のスキンシップとはこんなにくっつくものなのか?
こんなにも、体が暑くなるものなのか・・・?
「・・・絵」
耳元で囁くように名前を呼ばれて得体の知れない何かが背中を駆け上がる。
もう、何も分からない。
真っ白になっていく頭とクラクラと目眩を起こす体に、絵はギュッと瞳を閉じた。
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