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女男子生徒9
狭い玄関に二人分の吐息が聞こえる。腕と肩から伝わってくる体温に心臓が早鳴りし出す。
どうしよう・・・。
HU・TA・RI・KI・RI☆だ!
やべー!やべー!やべー!!あれからまだ数時間しか立ってないんだけど!?
あんな爆弾提案してきた奴とHU・TA・RI・KI・RI☆なんだけど!?
ヤバイヤバイヤバイ・・・!
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。おそるおそる隣を見上げると、ずっとこちらを見ていたらしい瞳と視線がぶつかった。
「えっと、高内あの・・・」
「名前」
「へ?」
ぽけっと見上げてたら急にずいと顔が近づいてきた。息が止まる。
「・・・名前で呼べって、言った」
「え・・・あ、その」
「・・・絵」
ぐっと見つめてくる瞳と、名前で呼ばれたこそばゆしさがギュッと心臓を鷲掴む。ドクドクドクドク、鼓動ばかりがうるさい。
「あ・・・う・・・」
「絵・・・」
「ぁ・・・よ、う・・・?」
蚊が鳴くような声だったけれど、満足したらしい相手は「よし・・・」と呟いて顔を離した。そこでようやく瞳の呪縛が解ける。
「ぁ・・・とっとりあえず上がれよ。いつまでもここにいるのも変だし!」
バタバタと逃げるように室内に逃げる。その際掴まれていた腕を振り払うようにしてしまったが、顔から火が出るくらい恥ずかしくて、それどころではなかった。
陽も特に反応せず「・・・お邪魔します」と言って部屋に上がってきた。
寮の部屋はどこも統一されていて、八畳のリビングに小さなキッチンに小さな寝室が一室。あと備え付けのトイレとお風呂と大分豪華な作りとなっている。まあ、トイレとお風呂が個人にあるところはすごくありがたいのだが。
そんな自室とは変わらない造りであろうに、陽は物珍しそうに部屋を見渡している。
「あんまり見られても恥ずかしいんだけど・・・」
「・・・ん、すまん」
さらっと返されて、しかしどうも気になるのかうずうずしてる。
とりあえず自分が使う敷物に陽を座らせ、飲み物を取りに台所に向かう。
「ん〜・・・緑茶飲める?」
「・・・問題ない」
ぱぱっと淹れて陽に出す。人にお茶を淹れるなんて施設でお客さんの接待をした以来だ。一口飲んで未だ忙しない感情を落ち着かせ、やっと陽に向き直った。
「あの、さっきはありがとう。助かった」
「・・・いや、たまたま通りかかっただけだ」
「ふうん・・・それよりたか、陽も寮生だったんだな。部屋どこ?」
「・・・ここの真上」
「なにっ!?」
想像以上の近さに驚く。いくら別々に学校を行き来するとはいえ、今まで会わなかったのが不思議なくらいの近さだ。
へーと思わず天井を見上げる。
「世界は狭いな」
「・・・何言ってるんだお前は」
「いやあ・・・偶然ってすごいなって話。だって何人もいる中でたった一人の知り合いが真上に住んでんだもん」
「・・・実は偶然じゃなかったりしてな」
え!と陽の顔を凝視すればどこか楽しそうに目を細めていた。遊ばれたと分かると、顔に熱が集中し出す。と、今度はぷっと吹き出された。なお恥ずかしい。
「お前な・・・!」
「・・・怒るな。絵が面白いのが悪い」
「なんだその理由はっ!人をおかしなやつみたいに言って!」
「・・・事実変わってるだろ」
「なにおうっ!?」
さすがの言い種にカッときて手が出る。しかし、すんなりと受け止められてしまった。
「なんだ・・・今度はじゃれ合いか?」
「黙れバーカ!」
手を封じられてるため今度は足が出る。それすら簡単に受け流され、勢い余ってバランスを崩した。
転ける!目をギュッと瞑って衝撃に構えるが、待てども待てどもそんな痛みはやってこない。
そろそろと目を開けると、呆れたような切れ長の目がこちらを見ていた。
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