女男子生徒8
「は・・・?」
「こんばんはと言ったんだよ渋澤くん!」
ものすごくハイテンションで喋る彼の顔はよく見たら見覚えがあった。確かクラスメイトの板野という奴だ。彼の後ろにはもう二人、やっぱり見覚えのある人間が立っている。
「えっと・・・何の用?」
「よくぞ聞いてくれた!今な、食堂借りてA組で盛り上がってる途中なんだ!」
「レクレーションってやつ!」
「渋澤くんもこない?」
板野だけでなく後ろ二人もハイテンションだ。どうやら食堂で楽しく遊んでいるらしい。その余韻で興奮してるんだろう。
しかし、なぜそんな場に自分を誘いに来たのか?
正直、自分は自ら作った壁のせいで、誰からも好まれていない確信がある。そんな奴を盛り上がってるところに連れていっても、場を白けさせるだけな気がする。
「あ・・・おれはいいよ。明日の予習しなきゃだし・・・」
だから最もらしい台詞でお断りをいれたのだが・・・。
「そんなこと言わず!楽しいぜ!」
「そうだそうだ!勉強のことなんて忘れちまえ!!」
「ウェルカム渋澤!」
なぜかはね除けられてしまった。お前ら理性仕事してないぞ!?おれが行けば白けること承知で言ってるのか?いじめか!?
「とにかくいこー!いこー!!」
「え、わっ!?」
ぐいぐい腕を引かれ、反射的に踏ん張る。だが余計強い力で引っ張られ、ずるずると外へ引かれ出されていく。
嫌気なく笑いながら連れて行こうとする三人。もしかしたら純粋にお誘いしてくれてるのかもしれない。でも絵にはどうしようもない不安があって、必死に抵抗する。
「よーし!戻るぞてめぇらー♪」
「ちょ、と・・・や・・・」
嫌だ!と叫びそうになる。強い力に外に引っ張り出されて。
「・・・何の騒ぎ?」
そんな冷たい声に、場が凍りついた。
「・・・あ、誰かと思えば高内くん!こんばんはー!」
「・・・高内」
空気が冷めたというのに、相変わらず明るいテンションの板野と向かい合うようにして高内がいた。
絵の部屋は三階の端にあり、一番寮の外階段の近くにある。反対側にはエレベーターもあるので、外階段を使う人間は少ないが、エレベーターで誰かと密室状態を避けたい絵にはありがたい階段だ。
高内はちょうどそこを下りてきたとこなんだろう。こちらを神妙な顔で見ている。
しかし、そんな様子に動じないのがハイテンションモードであるのだろうか。
「おー!ちょうどいい!高内くんも一緒に行こーぜ!」
「食堂にA組で集まってんのよ!」
「遊ぼーぜ高内くん!」
口々にお誘いかける三人。その様子をしばし見て、ふいと高内が顔をこちらに向ける。
目が合った。
それだけで何か決めたのだろう。高内は三人の脇を通りこちらに歩いてくる。
ぐっと板野に掴まれていた腕を高内が引き離し、掴む。
「・・・悪いけど」
顔を三人に向けたままの高内に体を押され、ゆっくり玄関に押し戻される。
「俺はこいつと先約があるから」
バタンと玄関の扉が閉まる。三人の姿は見えなくなり、見慣れ始めた玄関の扉がただ目の前にあった。
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