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女男子生徒7



「さーちゃんどうしよ・・・死んじゃうかも・・・!」
『落ち着きなよ〜それにかいちゃん、告白されて死ぬ人なんて世界のどこにもいないよ〜?』

体育座りで受話器を握りしめながら震える絵をおっとりとした声が宥める。

くーちゃんと一緒で施設からの大親友さーちゃん。その大親友二人と毎日電話で今日の報告し合うのが、絵の日常の一部だった。
ちなみに受話器の向こうは今さーちゃん一人らしい。

『くーちゃんは夜勤だって〜』

とぽえぽえ声が教えてくれた。なんだか大変そうだ。


『それで〜?“彼氏”さんは何でそんなことを〜?』
「あ・・・えっとね・・・」

耳慣れない“彼氏”の単語に狼狽えながら、絵は放課後の出来事を思い出した。


+++

「今・・・なん、て・・・?」
「付き合おう・・・と言った」
「・・・どこに?」
「・・・そういうニュアンスで言ったわけじゃない」

いつも通りの表情で、少し呆れた声音を高内が漏らす。
え・・・おれ何か変なこと言ったか・・・?


「・・・俺は“恋人”として付き合おうと言ったんだ」


違った。おれは変じゃない。高内が変なんだ。

あまりに急すぎる話についていけず、目を見開き顔を赤くする絵に高内ははぴっと人差し指を上げた。


「・・・例えばの話、お前がしつこい奴に絡まれてしまったとする」
「・・・うん」
「そこに・・・俺が割り込んでみても、第三者は用無しと突っ返されるだろう」
「まあ・・・」
「しかし・・・それは“友人”だとしたら、だ。“恋人”なら状況が変わってくる」
「何でそうなるっ!?」
「・・・考えてみろ。“恋人が絡まれていたから”という方が正当性があるだろ」
「友人でもあるよなっ!?てかよく考えろ!おれ学校では“男”なんだぞ!?」
「・・・別に同性愛者ということになるだけだ」
「いやいやいや!そのレッテルは駄目だろ!!」
「・・・俺は構わない」
「構うの!おれが!」


話の終わりが全く見えない。
なんで高内はこんなことを言い出したんだろう?


「変だろ、そんなの・・・だって、高内の提案はおれの性別を隠すためのものだろ?」
「・・・ああ」
「だったらやっぱおかしいよ・・・おれは誰に何言われても、隠せれば気にしない。でも、そのために高内が何か言われるのは絶対に嫌だ。それに・・・付き合うとか・・・そんな軽いものじゃないと思うんだ・・・」
「・・・渋澤」
「そんなおかしな関係になるくらいなら・・・おれ、高内とは“友達”でいるほうが・・・ずっといいよ」


尻窄みになっていく声は、(内容はなんであれ)折角高内が絵のために提案してくれたことを断る罪悪感から。力なく俯いて、唇を噛む。


「・・・わかった」
「高、内・・・」
「・・・俺はお前の役に立てばと提案しただけだ」
「・・・ごめん高内」
「名前」
「え?」

顔を上げて、きょとんと正面の彼を見る。

「呼び方・・・今度から名字じゃなくて名前で呼んでくれないか?」
「何・・・で?」
「・・・“友達”がいいんだろ?」


くす、と高内が目を細めて微笑む。手がのびてきて絵の手をとりきゅ、と握る。


「・・・俺もこれから、渋澤じゃなく“絵”って呼ぶから」



+++


『口説かれてるね〜かいちゃん』
「さらっと言うなさらっとぉ!!かっかかかかか帰ってくるまでどれだけ恥ずかしかったと・・・!」
『かいちゃん、恋愛話にはホント初さんだもんね〜』
「だからさらりと言うなってぇ!!」


最早叫ぶ勢いで受話器の相手に訴える。堪えるようなくすくす笑いに、面白がられているのがよく分かった。

『それで〜・・・彼氏さんとは本当に付き合わないの〜』
「無理無理無理!絶対無理っ!あんな空気を毎日とか死ぬ!」
『え〜残念。くーちゃんとお祝いしようと思ったのに〜』
「面白がらないでくれる・・・?」
『そんなことしてないよ〜それより、本当に付き合わないの〜?』
「勘弁して・・・」


誰に見られるわけでもないのに、膝の間に顔を埋め赤い顔を隠す。なおも聞き返してくるさーちゃんに、そろそろ怒ろうかと口を開いた。


トントン。


「ん?はーい?」
『どうかしたの〜?』
「ああ、誰か来たみたい。今日はこれで切るね」
『は〜い。じゃあまたね〜』

電話を切り、ノック音のした玄関に向かうため立ち上がる。
しかし、こんな時間に誰かが来るのは初めてだ。

「管理人さんかな・・・?」


再度叩かれた扉に「はーい」と返事をしながら、絵は玄関の扉を開けた。


「こんばんはっ!」


そこにはビシッという効果音がつきそうな勢いで最敬礼をする少年が立っていた。




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