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女男子生徒6





「女だったんだ」
「・・・うん」
「よく男子校に・・・入れたな?」
「まあ・・・色々と頭下げて・・・」


そうこう喋りながらも、相変わらず絵は机に伏せたままで、高内はそんな絵の頭を静かに撫でている。

なでなで・・・。

なでなでなで・・・。



「・・・高内さん」
「ん?」
「あの・・・頭・・・」
「・・・嫌か?」
「嫌・・・じゃないけど」

恥ずかしい。

年上とか、親友二人に撫でられたことはあるけど、異性の同級生に撫でられたことは・・・多分ない。だから気恥ずかしい。

むくりと体を起こすと、静かに手は離れていった。ちょっともったないなあってなぜか思った。


「ちょっと・・・聞いてもいい?」
「・・・何だ?」
「んと・・・おれってちゃんと、周り誤魔化せてる?」


男として、とは口に出さなかったが、高内はちゃんと意味を理解してくれたようだ。


「そうだな・・・“変声期を迎えていない小柄な男子生徒”には見えるだろ」
「本当か!」


ちょっとした安心が胸の内に広がる。
他人からの自分の見られ方を知るには、どうしても他人に聞かなければ分からない。
前置きは置いておいて、ちゃんと“男子”に見えている。それが絵には大事だった。


「・・・他に知ってるやつはいないのか?」
「ん〜・・・先生はみんな知ってるとは思う・・・けどそれくらいかな」
「・・・じゃ、生徒は俺だけ?」
「うん!」
「そうか・・・」


ふっと小さな笑い声がした。え、と己の目を疑う。

「・・・ありがとう」

優しい声が耳に届く。
穏やかな眼差し。





高内が笑っている。

引き結ばれていた口角を柔らかく上げて、瞳を優しく細めながら、笑ってる。


「ぇ・・・あ・・・」


初めて見た彼の表情に分かりやすく狼狽える自分。だって思わずドキッとしてしまったんだ。顔がなんだか熱い。


「あの・・・何で、お礼・・・?」
「・・・俺を信頼して明かしてくれたんだろ?」
「ま・・・ぁ・・・」
「だからだよ」

先ほどよりも口角を上げ、本当に嬉しそうに笑う高内。彼の手がこちらにのびてきて、頬に触れる。優しく。また頭を撫でられる。彼が笑う。
誰もが心奪われてしまうような笑顔。
絵にだけ向けられてる笑顔。優しくて、穏やかで、蕩けてしまうような笑顔に、絵は。



「〜〜〜〜っ!」

ガバッ!




勢いよく机に伏せた。
絵には見えないが、高内はその行動に目を瞬かせる。


「・・・どうした?」
「ムリッ!もぉムリ!!なにそれズルい!反則!!」
「・・・・・・は?」


ぽかんと高内に見つめられとるとも知らず、絵は悶えるように机に額を擦り付けるように首を振る。
暫くそうして、幾分か落ち着いたら再び顔を上げ、相変わらず目を瞬かせる高内をキッと睨んだ。

「・・・笑うの禁止」
「意味がわからん」
「うっせぇバーカ!もっと自分を自覚してから物を言え!」

バシバシ机を叩きまるで子供のようなことを捲し立てる。
ああ、自分今、超恥ずかしいな・・・。


「とっ、とにかく無闇に笑うんじゃないぞ!こっちの心臓に悪いんだから!」
「・・・変なやつ」
「うるさい!何とでも言え!!」
「言ってること無茶苦茶だな・・・」


そんなのおれが一番知ってる!

でもそう言えるわけなくて、絵は拗ねるように頬を膨らませた。
面白がってるのか高内に頬をつつかれて遊ばれ、睨めば頭を撫でられる。完全に子供扱い。



「高内のバーカ・・・!」
「・・・悪い悪い」

高内に背を向け、椅子の背もたれに顎を乗せるように座れば、背中にそんな声がかかった。

絶対悪いと思ってない。めっちゃ声が棒だぞオイ。


「・・・なあ、渋澤」
「んー?」
「お前は三年間それ隠し通す気?」


それ、とは性別のことだろう。「うん」と声で頷いて、顔だけ高内に向き直る。


「・・・そこでひとつ提案なんだが」
「提案?」
「ああ・・・提案だ」


興味が引かれるままに高内の顔を見つめ、先を促す。


「・・・この先、何かの拍子でバレそうになる事が少なくともあるだろう」
「まあ、それはな・・・」
「その際に・・・俺が理由をつけて間には入れれば楽だと思わないか?」
「ん・・・まあ助けてもらえれば嬉しいかもな」
「だろう?・・・そこでひとつ提案だ」
「うんうん」

「・・・付き合おう」




疑問符が、頭を埋め尽くした。
目を幾度も瞬かせる。
じっと、正面にいる男を凝視する。



真っ直ぐな瞳に引き結ばれた唇。
そいつは不自然なほどいつも通りそこに座って、そんなことを言った。






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