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女男子生徒5



顔が露になった高内はかっこいい。そう思った。

どうもそれはおれ一人にしか当てはまることではないらしい。


「どうした高内!」
「今頃イメチェンか高内!」
「やっべぇ・・・テライケメソ・・・」


教室に入ってすぐ耳に入ってきたのはそんな言葉たちだった。


「・・・・・・」

いつも以上に賑やかな教室に入ってすぐ、絵はその場で固まった。いつもならありもしない人垣がとある場所に生まれていた。
それは、高内の席。

数人のクラスメイトが彼の席を360゚囲んでしまっている。そのため、席に着いてるであろう等の本人はこちらから視認できない。


「・・・すげー」

みんながそこまで反応を示すとは思いもしなかった。その現状に驚きつつ、絵は自分の席に向かい鞄を下ろす。
もう一度、そこから振り返って見てみる。そこで僅かな隙間からようやく高内の姿を見ることができた。
昨日自分があげたヘアピンを付けて、いつも通り口を引き結んだまま頬杖をついている。


「高内ちょっと色気づいてね?」
「・・・・・・」
「高内もしかして気になるアレでもできたのか!?」
「・・・・・・」
「なあ、今まで付き合ったやつとかいたり?あ、実はフラれたショックで顔を隠したけど新しい恋でイメチェンしたとか!」
「・・・・・・」


ガン無視だ。
総スルーしてやがる。
てか、周りの想像力の豊かさに少し呆れた。彼等の予想は真実をかすってすらいないわけだが、それを高内が指摘するわけなく、周りで勝手に話が盛り上がっていく。

ふと、高内と目が合った。彼は目を細めてこちらにげんなりしてると暗に伝えてくる。ちなみに周りは盛り上がりすぎて高内の様子に気づいていない。


絵はうーんと暫く考え、そっと口元を隠すように手を添えた。

『へ・い・き?』

口パクでそう尋ねてみる。それが伝わったかどうか定かでないが、高内は小さく頷き返してくれた。



その日、全ての休み時間という空き時間に高内はクラス問わず、多くの人間に囲まれていた。




+++

「なんというか・・・災難だったな」
「・・・ああ」
「やっぱ、おれのしたこと余計だった?」
「そんなことはないから・・・気にするな」


放課後。
最早恒例になりつつある高内との勉強会。

高内豹変(とクラス連中が言っていた)に群がっていた生徒達も、さすがに放課後ばかりはやることがあるのか教室にはいない。
昨日と変わらない静かな教室に高内はどことなくホッとしているようだった。


「にしてもみんな暇だよな・・・おれ個人を複数人が追っかけるとこ初めて見た」
「・・・追われる側は面倒だと知った」
「じゃあ有名人はさぞ面倒な立場にいるんだな」
「・・・なんだろうな」

カリカリとペンを走らせて。
他愛もない軽口を交わして。

だけど、絵の内心はそんな見かけと裏腹に悩んでいる。



それは自分の隠し事について。


高内は(何を思ってかは分からないが)自分の隠したいことを絵に教えてくれた。
だけど、高内は絶対に絵の隠していることについて聞き出そうとはしないだろう。少なからず一緒にいて、彼がそういう人間ではないと理解している。


でもそれが、何だか寂しい。
彼と一緒にいるようになって、いつからか絵の中にはひとつの欲求が生まれていた。
それは最初、すごくあやふやなものだった。けれど、昨日話を聞いてからそれはハッキリと形を持って絵に存在を認識させた。



高内と友達になりたい。



お互いに知らないことの無いような親友になりたいとは言わない。でも、自分を知ってほしい。相手を理解したい。そんな関係に、高内となりたいという願い。




「ね・・・高内」
「ん?」

何にも妨げられない、切れ長の瞳が絵をとらえている。真っ直ぐに見てくれている。


「あの・・・おれ、さ・・・」


緊張している心臓がドクドクとうるさく騒ぎ立てる。空気が喉で引っ掛かって呼吸がしづらい。

「渋澤・・・?」

高内がそっと顔を覗き込んでくる。近い距離で目があった、瞬間、何かがプツンと切れた音がした。



「おれ・・・おれ、女なんだ!!!」



教室で反響するほどの大音量が部屋に響く。

はぁはぁと真っ赤な顔で荒い息をつく絵。
片や大声に驚き圧倒され固まっている高内。




・・・言った!
・・・言ってしまった!

しかもめっちゃ大声で!

今更ながら不安が胸を渦巻く。

誰にも聞こえてないよね?!
おれ今すごく馬鹿なことした!?


だらだらと嫌な汗が全身から流れ出る。ぐるぐるぐるぐる不安が、不安が頭の中で回る回る回・・・。


「・・・渋澤」
「うひゃい!!」
「それ・・・お前の隠したいこと?」


優しく問いかけられた声にカクカクと頷いた。
ふわり、頭に温かい感触。


「・・・ありがとう」


瞬間、空気が和らいで絵はへなへなと机につっぷした。その力の抜けた頭を、高内は静かに優しく撫でていた。




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