ライン

女男子生徒4





「そ・・・れ・・・」

声が震える。

決して不注意でできるような傷じゃない。


高内が隠してたもの。
人には知られなくない秘密。



「物心つく前には、もうあった」

高内が手を下ろす。元通り前髪がぱさりと落ちて、額もろとも顔を隠す。


「ガキの頃は問題なかった。鏡さえ見なければ存在を忘れられる・・・だが、年を重ねれば自然と周りの目が何を見ているか理解できるようになる。人の目がコレに向けられてしまえば、嫌でも意識しなければいけない」


だから前髪で隠した。
どんなに邪魔でも、見られるよりはマシだと。

誰にも知られないように。


「・・・ごめん」
「だから・・・どうして謝る?」
「ん・・・なんとなく」


知ってはいけないものを知ったこと。無理をさせたのではないかという罪悪感。そんなものが絵の胸の内に生まれる。
しゅんと項垂れて自分の足元を見た。が、すぐに強い力で無理矢理顔をぐいと上向かされる。

「・・・俺の勝手でそう気落ちするな」

頬に手が添えられている。どうやら、その手が絵の顔を上げたらしい。触れてる部分から体温が伝わってきて温かい。

「気落ち・・・しないにしてもさ、良かったのかよ・・・おれなんかにそれ見せちゃって」
「隠したいことがあるやつが人の秘密をべらべら喋ったりしないだろう」
「な・・・成る程・・・」

確かにそういう傾向はあるかもしれない。
秘密っていうのはどうしても興味を引く。そんなこと人に話してどこまでも食いつかれれば、自分の隠し事がポロッと出るかもしれない危険性も増すから。

「それに・・・お前は口が軽い人間じゃないというのは、一緒にいてわかったしな」
「そ・・・すか?」
「ああ・・・だから余計にかもしれん」


お前にだけ傷を見せたのは


真っ直ぐ告げられた言葉の中にある信用に、体の奥がこそばゆくなる。なんか・・・恥ずかしい。

「そっか・・・そうか、そ・・・うん。そっか」
「・・・何だ。照れたりして、変なやつだな」
「悪かったね!生まれつきだよ!!」

嘘だけど。
なぜだろう。なんとなく高内の雰囲気が柔らかくなった気がする。
隠すことがなくなったから・・・?


「・・・面と向かって切ればいいなんて言ったのもお前ぐらいだ」
「そうなんだ?」
「影でこそこそ言う奴はいたがな」
「うわぁ・・・それ感じ悪・・・」
「・・・だからお前は珍しい。最初呼んだ時、こっちに来ないと思った」
「それは失敬な。それに呼ばれたら誰だって来はするだろ?」
「・・・どうだかな。俺はこれだから」

そう言って前髪を軽くいじる。
絵は柔らかくなった雰囲気に乗じて、ふと頭に浮かんだこと言ってみることにした。

「ひとつ聞いていいか?」
「・・・何だ?」
「その前髪さ・・・強い風が吹いたときとか髪がめくれて困ったことないか?」

ぱちりと目を瞬かせ、それでもおれの突発発言に慣れたらしい高内はすぐに「・・・ある」と言って頷く。

「じゃあさじゃあさ・・・」

ゴソゴソとポケットをあさり目的の物を探す。最初は何かに使えるかなと思い持ち歩いてたが、そんな機会はなく、半ば忘れかけていた物。それを取り出すと、高内に体を近づけ前髪に手をのばす。
ビクリと高内は体を震わせたが何も言わず、大人しくこちらのやることを見守った。


「切れないなら、こうしたらどうだ?」


前髪に触れていた手を離す。しかし、先程とは違い髪は顔を隠さない。落ちずに留められている。


絵が持ってた二本のヘアピン。


それで傷が見えないよう髪を留めつつ、顔にかかるのを防いでいる。
高内は留められた髪に静かに触れた。


「それなら邪魔にならないだろ?傷も隠せるし、風でめくれにくいだろうしな」
「・・・これは」

なんとも興味深そうにぺしぺし叩いたりしながらヘアピンに触る高内。何だか子供っぽい仕草でちょっと可愛い。そして、満足いくまで触ると目が合った。バッチリと。


「・・・気に入った」


いつも通りの表情。その筈なのに、いつもは見えなかった切れ長の瞳が自分を写しているのが分かるだけで、雰囲気が違う。

少しだけ、瞳が笑っているような気がするのはおれの気のせい?


「・・・ありがと」
「ん、どういたしまして?」


こちらの勝手な押し付けな気もしたのだが、なんとなく高内の機嫌が良さそうなので黙っておく。

ヘアピンはどうせ使うものでもなかったので高内にあげると言った。すると一瞬、驚かれた表情をされて「やっぱり珍しいやつ」と言われた。

「・・・俺をこんな風に構うやつ、渋澤ぐらいだな」
「なんだよ。先にきっかけを作ったのは話しかけてきた高内だろ?」
「・・・違いない」


ふっとこちらを見ていた瞳が細められた。それに不覚にもドキッとしてしまう。

素顔が露になった高内はかっこいいとか考えて、少し恥ずかしくなった。



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