ライン

女男子生徒3




「・・・今日もやってんの?」

高内からの問いかけ。

「そうだけど?」

おれの答え。


「・・・じゃあまた教えてくれよ」


次の日の放課後も、その次も、そんな問いかけで始まって、勉強して、寮に帰る。
そんな流れで、一週間が過ぎた。






「高内さあ・・・」

流石に一週間も共にいればこんなおれでも相手に慣れる。
それに高内は意外と話しやすかった。喋れば何かしら反応を返してくれるし、かといって向こうからずいずい話しかけてくることもない。
言ってしまえば、一緒にいて楽だった。

また、人に物を教えるというのは、自分がどれだけその事柄を理解できるか再確認できる。勉強もなかなかはかどった。

そんな慣れてきたからこそ、今までちょっと気になってたことを聞いてみることにした。


「前髪・・・邪魔じゃないの」


じっと彼の顔を真正面から見つめる。が、全く目があってる気がしない。
なぜなら高内の目がほとんど前髪で隠れてしまっているため。


一週間前まではただ暗い印象だけを与えるものだったが、ここ数日で距離が近づいた分、それが気になって仕方なくなってきた。
だって今にも毛先が目に入りそうで痛いんだもん。

高内は前触れもないそんな質問に驚いているらしい。目をパチパチと瞬かせて・・・るっぽい。


「まあ・・・別に答えたくなければいいけど・・・」
「邪魔だけど」
「邪魔なのかよ!?」

普通も普通な答えに思わずつっこんでしまった。

「・・・視界は暗い・・・目が痒い・・・最近はよく毛が刺さってくる」
「目を悪くするぞ!?そんなに気にしてるのに、切らないのか?」
「・・・・・・」


急に静まりかえる教室。いきなり黙りになった高内に内心焦りを感じる。

「・・・高内?」
「・・・・・・何だ?」
「えっと・・・おれ、余計なこと言った・・・?」
「・・・・・・そんなことはない」
「・・・・・・」


その間は絶対そんなこてある間だ。もしかしたら高内は高内なりに理由があって切らないのかもしれない。
それがなんなのか見当もつかないが、人の理由なんてそんなものだ。

施設で育った自分は、今まで色んな子にあった。その中に、人が見ればゴミとしか思えないオモチャの部品を大事に持つ子がいた。どんなに「もう捨てなさい」と言われても手放さない部品。その子にとって大切な思い出が、それにはあったらしい。

人は皆違うから、他人の全てを理解できるはずがない。
それでも親しくなりたい時は、そういう深いものにあえて触れずにいた方がいい。

今までの実経験から、もうこれ以上この話題はやめた方がいいと判断した絵は何か別の話題を、と考えるため視線を窓の外に向ける。




「隠したいものがある」



静かな教室に、高内のさして大きくもない声が驚くほど響いた。

ゆっくり視線を高内の方へ戻した。高内は真っ直ぐにこちらを見て、引き結ばれた唇を開く。



「人には知られたくない・・・隠したいものがある」

それは冗談や嘘類いは含まれていない、混じりけのない本当。そのひどく真剣な声音に絵は圧倒されてしまう。


「そ、なんだ・・・・・・ごめん」
「・・・なぜ謝る?」
「だって・・・知らないとはいえ軽率だったなあ・・・と」
「なぜ?お前だって隠してるものがあるだろう」



ドクンと心臓が跳ねた。
息が、止まる。


「・・・な、んで・・・?」


驚くほど掠れた声。喉がカラカラに渇いている。


バレた?

バレてしまったの?

頭中にドクドクと心臓の音が響いてうるさい。

なぜだろう。高内のこちらを真っ直ぐと見てくる瞳が、怖い。


つぅと汗が一筋頬を滑った。それと同時に、高内の瞳が一度閉じられる。

「・・・渋澤から、そんな雰囲気がした。ただそれだけだ。別に隠してる内容を知ってる訳じゃない」
「そ・・・か・・・」


それを聞いた瞬間、肩の力が抜けた。どっと緊張感からの疲労が体をめぐる。


「そ、うなんだ・・・へぇ・・・そんな雰囲気あったりするんだ・・・ははは」


喋り方がぎこちない。それほど自分には衝撃がでかかったらしい。

と、とりあえず一度平常心を取り戻そう。うん。

すはーと深呼吸・・・。


「・・・そう。だからそんなお前になら、見せてもいいと思う」
「すー・・・・・・はい?」


なんですと?


「え・・・?見せたくないものじゃ・・・」
「だからお前にだけなら、見せてもいいと言った」
「む、無理をしなくても・・・」
「無理をするほど大層なものじゃない」
「か・・・くしてるんだろっ!?」
「秘密はいずれ露見するものだ」
「っ・・・!」


ああ言えばこう言われ、相手の思うように丸め込まれた。その内に、高内は右手を右目寄りの額と前髪の間に差し入れる。
そして、思い切り髪をかき上げた。
その仕草と、意外な瞳の鋭さに思わずドキリとしたのも束の間。



「・・・・・・ぁ」



目を見開いた。
高内の露になった額。


鋭い刃物で切り裂かれたような生々しい傷跡が、そこにはあった。


- 197 -


[*前] | [次#]
ページ:





戻る







ライン
メインに戻る