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女男子生徒2




「・・・わーぉ」


この高校に通い始めて初の試験範囲に、苦笑する。

教科が多い。

一学期から基本五教科でもない、家庭科とか音楽の試験もある。

絵は首席をキープするため、どのテストも上位を取らなければならない。
ちょっと泣きそうになった。







放課後は教室でひたすらテスト勉強に励んだ。教室を選んだのは、寮の自室は寂しくなるし、図書館は人がいるだろうから。
人がいなくなった教室で、どこかに人の気配を感じつつ勉強する。


二教科目を終えたとこで一息。時間は五時。
最低でも六時まで頑張る予定だから、あと一時間か・・・と考えた矢先。

ガラリ。

突然扉が開く音が響き、体が大袈裟に跳ねる。バッと振り返り見れば、一人の男子生徒が自分の席に座るとこだった。

中肉中背の体型。引き結ばれた唇。なにより特徴なのは顔を隠す長い前髪。


『あれ、高内・・・だっけ?どうしたんだろ?』


なんとなく気になって様子を伺った。座り込んだところを見ると、忘れ物をしたとかじゃないっぽい。

机の上にチラリと白いものが見える。プリントを見ているようだ。


『勉強・・・かな?』


そう推測して、体を自分の机に戻す。気になることには気になるが、絵は自分のことで手一杯な現状だ。

カリカリと再びペンを走らせる。
・・・が、暫く進んだところで分からない問題が出てきて手を止めた。
あんまり分からないとムシャクシャしてくるのが人間だ。
うーうー唸ってみるが、それで分かるはずがない。ペタンと机に伏せる。


「・・・今日はもう帰ろうかな」
「おい」
「・・・帰ろう。分からないものに頭を抱えすぎるのもよくないし」
「おい」
「・・・・・・え?」


なんとなく、呼ばれてる気がして振り返る。

高内と目が合った。・・・気がした。
前髪で顔が隠れてていまいち分からない。


「えっと・・・呼んだ?」
「呼んだ。これ、どう思う?」


そうしてトントンと机の上のプリントを指す。
見ろというらしい。仕方なく立ち上がって高内の席に近づく。

指された紙面には「クラス要望等」と書かれていた。生徒会のプリントらしい。
そういえば高内はクラス長をやってたなあ・・・と思い出しながらプリントを覗き込む。

「なぁ高内・・・」
「ん?」
「これってさ・・・クラスに聞いて書くやつじゃねぇの?」
「・・・だからお前に聞いてる」
「や、全員に聞くべきものだろ?」
「・・・面倒だ」

あまりにハッキリとした態度に呆れを通り越して感心する。とりあえず適当に答えると、そのままを用紙に記入された。

「テキトーなんだな」
「・・・面倒だし」
「へえ・・・それ今日提出?」
「明日」
「へぇ・・・」

面倒とか言いつつ前日に片付けてるってことは、それなりに真面目なやつなんだな。次々と見えてくる意外な面。思わず顔を見てみたりする。

「で・・・お前は何してたの」
「・・・へ?」

相手を観察するあまり、つい反応が遅れてしまう。

「あ、えっと、テスト勉強」
「・・・テスト勉強?」

なぜかポカンとした顔をされてしまった。あれ・・・?変なこと・・・でもないよな?

「おかしいか?」
「・・・まだ一月前だよな?」
「もう一月前だぞ?」

そのくらいから始めないとおれはヤバイんだって。
そんな自分の内心も知らず、高内は不思議そうな視線をおれに向けてくる・・・ような気がした。


「・・・ガリ勉?」
「うるせぇ黙れ」


思わずムッと言い返した。しまったと思いはしたが、今さら撤回はできない。誤魔化すように「まだ途中だから」と言って席に逃げた。

ああ、馬鹿だな。ほぼ初対面に対して今のは駄目だ。何で自分は沸点が低いんだろう。

この間「顔可愛いな」とか言って絡んできた同年を勢いで蹴り倒したのを思い出す。

いくらバレないためとはいえそれは過剰防衛過ぎた。だから友達ができない。


はぁとため息を吐いてペンを手に取る。もうとにかく勉強しよう・・・そんな気分だった。



「渋澤は化学得意か?」


後ろから、そんな声がした。
初めて名前呼ばれた・・・そんなことを思いつつおそるおそる振り返れば、またも高内と目が合った・・・気がした。


「化学、得意?」
「・・・別に普通・・・かな」
「じゃあ・・・」


教えてくれないか?


突然の申し出に目を瞬かせる。

数分後には高内の席でお互い勉強道具を広げていた。

「・・・これ分かる?」
「え?あ・・・ここは、えっと・・・」

変な緊張を感じつつ、しどろもどろに解説。それでも高内はちゃんと聞いて、頷いて、理解してくれた。


「あの教諭は教え方が理解しづらい」


相変わらず口を引き結んだ表情のまま、そんな軽口を高内が漏らす。やっぱりそれが意外で、人は外見によらないとつくづく思った。

結局その日は、高内と一緒に六時まで勉強した。
この学校へ来て、初めて誰かと言葉を交わしながら教室を出た。


なんだかちょっとだけ、嬉しかった。

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