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おかしな二人18
「ヒカルちゃん・・・」
するりと肩に手が乗り、耳元で囁くように名前を呼ばれる。
慌てて振り返れば目の前に比奈がいて、熱い眼差しがこちらに向けられている。
「ヒカルちゃん好き・・・」
「あ・・・」
きゅっと体を抱き締められる。ドクドク高鳴る心音。仄かに香ってくる女の子の匂いに頭がくらくらした。
好きな子の体温。好きな子の柔らかさ。全部が体越しに伝わってくる。
だけど、それは光太に向けられたものじゃない。
ぐっと唇を噛んで比奈の体を無理矢理引き離した。「ヒカルちゃん?」首を傾げた比奈が顔を覗き込んでくる。
「比奈、さん・・・」
「比奈って呼んでって言ったでしょ?」
「じゃ、じゃあ比奈。話が、あるんだけど・・・」
「うん。なあに?」
呼び捨てがよっぽど嬉しいのか、蕩ける笑顔を見せてくれる比奈にドキッとした。いけない、流されてはいけない。
「ま、まず・・・オレは光太って名前なのは理解してくれたよな?」
「ええ」
一気にクールダウン。あまりの切り替わりの早さに決意が萎えてきた。頑張れオレ。負けるなオレ。
「それで・・・オレは男です」
「知ってるわよそんなこと」
「・・・う・・・そ、それでオレは」
辛辣な雰囲気に言葉が喉につっかえた。
だけど、オレはちゃんとわかって欲しいから。三ヶ谷光太が、横井比奈をどう思ってるか知ってほしかった。
だから、
「オレは・・・オレは比奈が好きだ!」
人生初の告白は、ムードもなにもあったもんじゃない。ただ負けが見えてるのに悪あがきをするようなそんな告白。だけど今までで一番、気持ちを込めて言った言葉。
フラれてもいいと本気で思えた告白だった。
「三ヶ谷・・・光太」
初めて呼ばれた本名にドクンと心臓が跳ねる。
比奈が真っ直ぐにこちらを見ている。
「なに・・・」
「私は、ヒカルちゃんが好き」
「・・・知ってる」
呼吸が苦しい。だけど俯かないよう、しっかり顔は上げたまま。
「だから私は・・・あなたに応えられない」
「・・・・・・そう、か」
「そう。だからゲームをしましょう?」
え?と目を見開いた。
比奈は怪しげな笑みを浮かべてこちらを見つめている。
「ゲー・・・ム?」
「・・・私はヒカルちゃんが好き。光太は私が好き。だからゲームをしましょう。ルールは簡単」
ぴっと伸ばされた指がオレの胸を突く。トクトクと動く心臓の真上。怪しげな笑みのまま、彼女は紡ぐ。
「私はヒカルちゃんにアプローチして、あなたは私にアプローチをするだけのゲーム。但し、私はあなたに騙されてたってマイナスがあるから・・・あなたは私の前でヒカルちゃんの格好でいることがゲームをする条件。でもアプローチはあなたのままでやってくれて結構。勝敗は・・・分かるわよね?」
くすりと比奈が笑う。
本当に簡単なゲーム。
これは、どちらが先に相手を自分好みのサイドで落とせるかというゲーム。
比奈の勝ちは「オレをヒカルとして比奈に惚れさせること」。
オレの勝ちは「比奈をヒカルから光太に振り向かせること」。
嘘をついた分だけ、オレが不利なこのゲーム。だけど、
「のった」
くすりと笑う。
おかしなゲームだ。
勝っても負けても、二人が一緒にいることが確定したおかしなゲーム。
勝っても負けても好きな人と一緒になれる、端から見れば負けなしのゲーム。
だけど、当人にとっては真剣なゲーム。
「大好きよヒカルちゃん」
「比奈が好きだ」
おかしなことを始めてしまったと思った。
だけど、それを後悔できないくらい、オレは横井比奈が好きらしい。
どちらともなく、唇を重ねた。
不慣れなオレはそれだけで心臓がバクバク暴れてしまう。けど、スタートから負けるような醜態は見せられなくて、オレは意地を張るように笑ってみせた。
比奈も楽しそうに笑っていた。
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