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おかしな二人17



我が家のリビングはどこにでもあるようなありふれた内装だ。
ソファーはテレビに向かうように置かれていて、その間にテーブルが一つ。キッチン側にも色々あるがそれは割愛。


今、テーブルを挟んで三ヶ谷姉弟と横井比奈は見合っている。


「それで?さっきのはどういうこと?」
「私・・・現実を受け入れたくなくて・・・」
「気づいたらああなってました・・・」

力の抜けたオレの回答に再び比奈が睨み付けてくる。しかも涙ぐんだまま。


「・・・横井さん、一つ確認してもいい?」
「はい・・・」
「あの噂は本当なのね?」
「・・・?」


何の話だろう?
比奈も不思議そうな顔をしてるが、光太はもっとぽかんとした表情で姉を見ていた。
姉の唇が動く。


「巷で有名な“横井比奈は女の子が好き”説は本当なの?」
「ええ、そうですけど」
「・・・・・・?」


頭がフリーズした。
なに?その“横井比奈は女の子が好き”説って?
どゆことですか?


「つまりね光太」


姉ちゃんがこちらに向き直り人差し指をピッと立てた。


「横井さんはね、女性に恋愛感情を持つ女の子ってこと」
「・・・え」

ギシギシとぎこちない動作で比奈を見つめた。女性に恋愛感情を持つ女の子。それってつまり・・・?


「・・・レズ?」
「百合と言ってちょうだい」

なぜかそんなところを訂正された。つまり彼女は女性の同性愛者らしい。


『じゃあ返してよ!私の初恋っ!』


先程の発言を思い出す。
比奈が見ていたのは三ヶ谷「ヒカル」。
「ヒカル」は女の子。
比奈は初恋といった。
それってつまり・・・つまり・・・・・・。


「うそ・・・」
「何よその呆けた目は!はっ倒すわよ!!」


ずっと不機嫌で攻撃的な態度。怒ってる。彼女にはそれだけショックだった。光太が男であること。
彼女は「ヒカル」という女の子に恋をしていたから。


「ちょっと、なに顔を赤らめてるのよ」
「えぁ・・・そ、そんなことは・・・」
「うちの光太はその手の話に免疫ないからね〜」
「姉ちゃん!!」


姉の口を慌てて塞ぐ。恥ずかしい。
そんなことをしている間に近づいてきたんだろう。座り直そうとしたら真横に比奈がいて心臓が飛び上がった。


「・・・綺麗な肌」

つぃと比奈の細い指が喉を撫でる。それだけでひくっと喉がひきつった。

「細い手足・・・」

ずいと体を寄せられ背中が跳ねる。僅かに覗く肌同士が当たって顔が熱くなった。

「可愛い顔で・・・」

じっと覗き込まれて上手く呼吸ができなくなった。心拍数が不自然に上がる。


「・・・ぺったんこな胸で、恥ずかしがり屋で、愛らしい瞳とか私のストライクゾーンど真ん中だったのにっ!!」

涙目で訴えられた。でもそんなこと言われたって困る。
というかオレは別に恥ずかしがり屋じゃない。恥ずかしかったのは女装してたからだ。


「何で男なのよ!ふざけんじゃないわよ!」

んな理不尽な。
生まれつき決まってた性別に文句つけないで欲しい。


「まぁまぁ落ち着きなさい横井さん」

姉ちゃんが顔を真っ赤にした比奈をオレから引き剥がす。そんな未練がましい目で見ないで欲しい。


「ヒカルちゃん・・・」
「・・・・・・う」

切なそうな瞳がオレを真っ直ぐ見てくる。本当に止めて欲しい。だって錯覚してしまうから。

オレも彼女が好きだから都合よく解釈してしまいそうになる。

胸がまたズキズキ痛んだ。



「ねぇ横井さん」

溜め息混じりの姉の声が比奈に尋ねる。

「光太のこと好き?」
「別に」
「はうっ・・・!」

あまりに素早い即答に胸を貫かれる。
分かってる・・・分かってるけどすげぇ辛い・・・!
目尻がじんと熱くなるのを感じていると姉ちゃんがもうひとつ質問を重ねた。


「じゃあヒカルは?」
「・・・好き、すごく」
「・・・っ!?」


うって変わって、蕩けるような甘い声に耳が熱くなった。
おかしいな、オレっていう人物は一人だけなのにこんなに対応が違うなんて。

それだけ比奈の中で性別の問題は大きいようだ。
すごく・・・複雑です。


「こりゃまた面倒な関係ねぇ」

うーんと唸る姉ちゃん。
チラリと比奈の顔を伺えば、質問が「ヒカル」で終わった影響か蕩けた瞳でこちらを見ている。心境は複雑なのに、体が勝手に熱くなった。なんか泣きたい。



「よし!」

パァンと手を叩く音に自然と姉に目がいった。
名案を思い付いたらしく顔は輝いていて、こちらを見てくる瞳は自信に溢れている。
何だろう、どことなく期待をした。





が、裏切られた。

「この問題は当人同士で解決する!以上!」


そう言い放って姉は脱兎の如くこの場から離脱した。
つまり逃げるが勝ちと判断したらしい。
あまりに潔すぎて清々しさまで感じながら、オレは姉の去った扉を見つめていた。




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