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おかしな二人16




「・・・え?」

頭が混乱している。背中は床についていて、見上げた先には比奈の顔。


「ヒカルちゃん・・・」


ズキリと胸が痛む。比奈の目に写るのは、女の格好をした光太。数日前まで、比奈と楽しく語らっていた「ヒカル」の姿。

虚しい。


自分を見てるようで見ていない瞳が。受け入れられないありのまま。


「オレはヒカルじゃない」

だから存在を主張した。
比奈の顔が歪む。「三ヶ谷ヒカル」を見つめている瞳が歪む。


「オレはヒカルじゃない・・・」

もう一度言って、彼女の肩を押して体を起こす。


「・・・じゃない」
「え?」

ポツリとこぼれた声に思わず反応する。するとキッと勢いよく真っ赤な顔で睨まれた。


「ズルいじゃない!!」


部屋中にそんな怒鳴り声が響き渡った。





「は、い・・・?」

肩で息をしながらこちらを睨んでいる比奈を見返してしまった。

何て言った?

ズルい?

何が・・・?


「そんな可愛い服が似合って!可愛い顔で!綺麗な肌で!正直ズルいじゃない!!」

可愛い服が似合う可愛い顔で肌の綺麗な子?
いや、それはあなただろうとそっくりそのまま言い返したかった。言えるはずもないが。


「ど・・・して・・・!」


真っ赤な顔のまま、比奈の手がおもむろにオレの胸を這う。初めての感覚に背筋によくわからないものが駆け抜けた。

「ちょ、おま・・・なにす・・・」
「・・・どことなく柔らかいのに」
「んなわけないっ!!」

オレは男です!しかも太ってません!だから胸が柔らかいとか有り得ないんです!

「比奈さん!よくわかんないけど落ち着・・・」
「・・・!!」

バッと何かが捲れた音がした。視界には下を向いた比奈が布を掴んで何かを凝視している。その布というのは、光太が履いているスカートさんだった。

つまりスカート捲られて下着を見られてる。

ちなみに光太君、女物の下着には興味がない(理由:着ても外から見えないから)。だから使用してるのは当たり前だけど男物。トランクス派。



「・・・ちょぉ、待てえぇ!!」


今更ながら抵抗を始める。しかし、なぜか比奈に抗われた。スカートが上に下に引っ張られ形を変えている。


「何でこんな可愛い抵抗をするのに女じゃないの!?」
「下着見られて抵抗しないとでも!?」
「男なら見られても平気でしょ!!」
「平気じゃなあい!!」
「そもそも同性なら抵抗をしないわ!」
「おかしい!おかしいから!もしオレが女だとしたってスカート捲られたら抵抗しますからね!?」

「女々しいわね!」
「そんなこと言われたくない!」


ようやくスカートを捲る手から力が抜けた。
お互いに息が荒く顔が真っ赤になってる。そうなった経緯は普通じゃないが。

「と・・・とにかく!オレは男だ!」
「・・・・・・!」
「服着たりとか、集めたりとかしてるけど男なんだ!
比奈さんを騙してたのは本当に悪かったけど・・・でも男なんだよ」
「・・・ぁ・・・し、てよ」
「え・・・」

肩を戦慄かせる比奈。僅かに瞳が潤んでいて、それを見て胸がズキリと傷んだ。


「ごめ・・・」

「じゃあ返してよ!私の初恋っ!!」










部屋の空気が固まった。

その空気を破ったのは第三者の声。

「・・・何してるの?」


三ヶ谷詩穂里は見た。
いつも通り可愛い格好をした弟が、なぜか先日彼が落ち込む原因となった横井比奈に馬乗りされている現場を。





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