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おかしな二人15



「あ・・・・・・」

言葉がでない。
もう絶対に、二度と会わないと思っていたから。

だって嫌われてると思ったから。


「・・・何してるの?」

不機嫌そうな声に我に帰る。嫌われてると思ったなんて、なに都合の良いことを考えてるんだろうか。

嫌ってるに決まってる。

騙したんだから。
用件はなんだろう。
オレに何か言いに来たんだろうか?
何だとしても、オレは受け入れなきゃいけない。


「どう、ぞ・・・」

身を引いて促すと、勝手知ったる彼女はスムーズに家に上がる。前ならここで客間へ移動するが、今は色々違う。
光太は帰ってきた制服のままだし、ウィッグも被っていない。正真正銘男の「三ヶ谷光太」。

比奈を客間へ入れるかあぐねていると、冷めた瞳がこちらを見てきた。

「ヒカル」に向けられるのとは真逆の眼差し。
それなのに光太の心臓はドクドクと騒ぎ立ち始める。たとえ笑っていなくても、その綺麗な顔立ちに視線を引き寄せられる。胸が痛い。
未だに彼女が好きなのだと、光太は痛感した。


「ねぇ」

やはり不機嫌そうな、それでいて凛とした声が自分を呼ぶ。

「な、に?」
「あなたの部屋ってどこ?」
「へ?あ、上・・・だけど・・・?」

そ、と納得した声を漏らすと急にグイと腕を引かれる。そして、訳のわからないまま歩き出す比奈に引きずり、連れていかれる。人の家だと言うのに、迷いなく比奈は階段へ向かい、上がっていく。
なんだか、誰の家なのか分からなくなる感覚に陥った。

二階の廊下で動きが止まる。二つの扉。光太の部屋と詩穂里の部屋。

「どっち?」
「あ・・・えと、左・・・」

階段手前の自分の部屋の扉を、比奈は構うことなく開ける。
初めて家族以外の誰かが自分の部屋に入ったというのに、光太には現実味がなかった。


部屋の内装はいたって質素。モノクロで揃えた寝具に装飾類いのない本棚。人目を引くと言えば、布のかけられた鏡と大きなクローゼットだろう。

比奈は躊躇なくクローゼットを開けた。中には光太の趣味の品がずらりと並んでいる。しかし、意外にも彼女はそれを見て眉ひとつ動かさず、服をひとつひとつ見ているらしい。

ぽかんと口を開けて、部屋の主は動向を見守っていた。

やがて比奈は腕をクローゼットにのばすと、一着の服を取り出す。ふわふわのフリルがついた、比奈が初めて家に来たときに着ていたものだ。
彼女は数秒、それを見つめ。


「着て」
「はい?」


光太に押し付けてきた。展開についていけず目をぱちくりさせる光太に構わず、比奈は服を押し付ける。

「着・て!」

強い口調で言われ、光太が服を受けとると比奈はさっさと部屋を出ていった。

わからない。

けどあそこまで言われたら着なければいけない気がしてくる。
光太は流されるまま制服のボタンに手をかけ、着替えを始めた。





「・・・着替えたけど」

比奈は廊下の壁に背中をもたれて待っていた。そろりと顔を覗かせたら、思いっきり顔を歪められ睨まれた。


「頭は?」
「え?」


指差され、数秒してなんのことか理解する。ウィッグのことを言ってるんだろう。一度部屋に引っ込み暫く使われなかったカツラを頭に被せる。
そして、もう一度顔を覗かせようと扉へ振り向くと、先に比奈が部屋に入ってきていた。


今更ながら女の子が自分の部屋にいることに恥ずかしさを覚える。
熱くなる頬を誤魔化すように、比奈にウィッグをつけたことを見せるように髪を一房掴む。


「これで・・・いいの?」


小声で尋ねるが応答はない。じっとこちらを見つめるだけの比奈に冷や汗が背中を伝った。

「あの・・・・・・」
「・・・ヒカルちゃん」
「え?」

ポツリと呟かれた名前に目を見開く。


気づいたら、比奈の手で床に押し倒されていた。



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