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おかしな二人9



「ヒカルちゃん、今日も可愛い服だね」
ありがとう。
「照れてるの可愛いねヒカルちゃん」
そんなことないよ。
「またね、ヒカルちゃん」
うん。またね。


ヒカルの顔をした光太が比奈と遊ぶようになって、二週間が過ぎていた。


+++

「光太。光太!」
「・・・・・・」
「こ、う、たっ!」
「うわっ!?な、なに?」

思いきり耳元で名を呼ばれ、ビックリした拍子に危うく椅子を倒しかける。体制を立て直して周りを見ると、何故か友達にぐるりと席を囲まれていた。


「・・・え?なにこの状況・・・?」

「お前さあ・・・最近変じゃね?心ここにあらずって感じだぞ?」
「そ、そうか?」

首を傾げたら一斉に頷かれてしまった。苦い顔になると囲んでいた中から一人がオレの隣に立つ。

「光太君悩み事?僕でよかったら相談のるよ?」

そう優しく聞いてきたのはクラスの癒し系こと富岡優利。どこか小動物を思わせる大きな瞳が、心配そうにこちらを見ている。

「あ、ありがとう優利。でも何でもないからさ」
「そうかなあ」
「そうだよ」

言い聞かせるように頭をよしよしと撫でたら、ほんわか笑顔を返された。
これが同じ年の男だとは到底信じられない。癒しすぎる。優利の幼馴染みが彼を甘やかす理由がよく分かった。


「わかった。でも本当に悩みがあったらいつでも言ってね?」
「そーそー。悩んでる光太なんてらしくないし」
「なんだよ。揃いも揃って心配性だな・・・オレは大丈夫だって。
ホラ、優利はオレを構ってる場合じゃないじゃん。呼ばれてるぞ?」
「えー?あ、本当だ。じゃあ僕行くね」
「オラオラ、お前らも解散しろって。次の授業英語だから準備しろよ」

そうして友達軍団をシッシッと追い払う。ぞろぞろと離れていく背中を送りながら、チラリと去っていく優利を見た。


「しーちゃん!」

満面の笑みで幼馴染みである少女に近づく姿は微笑ましい。
ありのままで一緒にいられる二人を見て、ズキンと胸が痛んだ。



それにしたって、今日のオレは心配される顔をしてるらしい。


「何かあった?」

委員会の席に着いた途端そう話しかけられた。

隣に座るのは二組のクラス長の有賀テオ。クォーターである彼は地毛が金髪で、一見近寄りがたく感じてしまうが、話してみると案外素直で接しやすい。
なんの因果か、一組のクラス長をやってるオレ。まあお陰でテオとは仲良くなれたわけだけど・・・。


「オレそんなに変?」
「ん・・・なんていうか表情がふわふわしてる感じ」
「マ〜ジ〜で〜・・・」


机に突っ伏すと頭をよしよしと撫でられた。教室とは逆の立場だ。


「悩み?」
「ん〜・・・そうじゃない・・・かなあ?」
「なんで疑問系なの?」


だって自分でもよくわからないんだもん。

今日はそんなんだから長谷川会長の話も上の空。委員会が終わってもテオは顔をチラチラ覗き込んでくる。


「ちゃんと帰れるか?」
「そんなに?」
「ん、なんか頼りない」

再びよしよしと頭を撫でられる。が、ヴーッヴーッと無機質なテオの方から聞こえ顔を向ける。テオはあからさまに顔を歪めながら、バイブを鳴らす携帯を取りだしボタンを押した。


「・・・・・・・・・」


無言のまま携帯を耳に当てている。向こうの話し声が光太の耳にも届くほど、相手は大声で喋っているようだ。なんとなく切羽詰まった感じに聞こえるが、テオは一通り話を聞くと。

「黙れ。うるさい。マジうざい」

そう吐き捨てて通話を切った。目に見えて不機嫌なご様子である。


「・・・光太。玄関まで送るよ」
「別にいいよ?」
「頼む・・・この後が憂鬱なんだ」
「・・・・・・」


何だか断りきれなくて玄関まで一緒に歩いた。テオと別れてすぐ、背後からテオの怒鳴り声が聞こえたのが今日の学校生活で一番印象に残った。





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