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おかしな二人7




お茶を淹れてくるからと半ば強制的に客間に比奈と二人きりにされる。

え・・・?なにこの展開?どうして?何で?横井さんが家に・・・?どうして?


「あの・・・ヒカルさん?」
「うぁはいっ!」

トントンと肩を叩かれ思わず飛び上がる。ギギギと横井さんの方へ首を向ければぽかんとしている彼女と目があった。はははと乾いた笑みを浮かべる。

どうゆうことなの、ホント・・・。


「あの、大丈夫ヒカルさん?」
「は・・・はひ、その・・・お、驚いちゃって」


ぎこちない返事しか返せない。そういえば横井さんからの呼ばれ方がいつの間にか名字から名前になってるなあ・・・何が起きてんだろホント・・・。


「驚いた・・・?あの・・・私、先輩に話を聞いたときに誘われたから・・・ヒカルさんも知ってるものだと思ってたんだけど・・・」
「あ・・・そう、だったの?へぇ・・・」


聞・い・て・ね・え・よ☆
あの姉は何勝手にそんなこと約束してんだ。弟の秘密を知られたいのかよコラ。馬鹿か?ならなんで作戦に協力してくれたんだよオイ。

と、心中怒りのまま姉への怒声を吐きまくるが目の前には横井さんがいる。仕方ないと、腹をくくることにした。

まずは、笑顔、笑顔。



「うん。本当に驚いたけどもう大丈夫。あ、そこに座って。狭くて申し訳ないけど」
「そんなことないよ。じゃあ失礼します」


自分の切り換えにホッとしたのか、横井さんもやっと今日初めての笑顔を見せて指したところに座ってくれる。
ああ、気を遣わせちゃったみたい・・・気を付けなきゃ・・・。
とりあえず今は姉がお茶を持ってくるまで話でもしようと、自分も横井さんと机を挟んで反対側に座る。


「それにしても・・・ヒカルさん普通校の人だったんだね。ビックリしたゃった」
「え?・・・あ!ごめんなさい、あの時は本当に・・・頭がパンクしちゃってて・・・!」
「ううん。気にしてないからいいよ。でも・・・私に見とれたなんて聞いて驚いちゃった」
「う・・・姉ちゃ、姉さんそんなことまで言ったの・・・?」


恥っずー・・・言うこと考えろよ姉ちゃん。


「うん。本当に驚いたよ。だってヒカルさんの方がよっぽど可愛いのに」
「うえぇっ!!?」


は?今なんと?オレの方が・・・よっぽど、何だって?!


「な・・・何言って・・・」
「冗談抜きの話、ヒカルさん凄く可愛いよ。見とれちゃうのはむしろ私の方ってぐらいに」
「〜〜〜〜〜〜っ///」


頬が、火照る。
可愛いって!?絶世の美少女に可愛いって言われてるのオレ!?!嘘だ!そんなの天と地がひっくり返っても有り得ないって!!
けれど、こちらを真っ直ぐ見つめてくる横井さんの顔は本当に嘘なんて吐いてなさそうだ。
ヤバっ・・・すごく恥ずい・・・!
思わず俯いて顔を隠す。ウィッグの長い髪がカーテンのようになってくれて、思わずGJ!と叫びたくなった。


「そ、そんなことないです・・・横井さんの方が、すごくすごく可愛くて素敵で・・・」
「冗談抜きって・・・言ったよね?」


思った以上に近くから聞こえた声に身を固くする。するりと頬に何かが触れて、驚いて凝視すればそれは綺麗な細い指。
それにクンと顔を上向かされ開けた視界には、近いなんてもんじゃない距離に横井さんの顔があって、心臓が勢いよく跳ねた。
どういうこと!?
半ばパニック状態で声にできない叫びを上げる。

「よっ、横井さ・・・」
「比奈」
「え・・・?」
「呼び方、比奈でいいよ。だって同い年でしょ?」
「あ・・・まあ確かに・・・えっと、比奈・・・さん?」
「うふふ・・・まぁいっか・・・。ねぇ、私は“ヒカルちゃん”って呼んでい?」
「ちゃん・・・?!」
「そう、ヒカルちゃん・・・」


ついと横井さん・・・もとい比奈さんの指がオレの顎をなぞる。
少しだけ目を細めた比奈さんはなんとも言えない魅力を放っていて、どこか熱っぽい表情でオレを見つめている。

ヒカルちゃん。

姉ちゃんとは違う呼び方の愛称。ドクンッと心臓がまた跳ねて、彼女から視線を外せない。

そのまま、見つめあったまま、徐々に比奈さんの顔が近づいてくる。睫毛が長い。ヒカルちゃん。また呼ばれて、比奈さんの吐息が唇に触れて、それで・・・。



トントン。


扉が叩かれた。どうやら姉ちゃんがお茶を持ってきたらしい。

「・・・・・・残念」

比奈さんの顔が遠ざかる。
姉ちゃんが部屋に入ってきて、お茶を並べて、比奈さんに話しかける。他愛ない、お喋り。

何だか全て別世界のことのように光太には思えた。



何だったんだろう・・・今の・・・。

ドクドクと血が循環する音だけがやけに煩く聞こえた。



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