ライン

おかしな二人6



「光太ぁー!」
「ん?なにって・・・おい!背中に乗るな!重い!」
「なんだよーただのスキンシップじゃーん!光太君のケチー!」
「ケチでいいから全体重をかけるのを止めろ!潰れる!」


授業の合間の休み時間。
一年一組の教室では各々が賑やかに言葉を交わす。
オレも教室の中央にある自分の席で友人数人と会話をする。
その途中、オレより身長の高い友人の満月に背中へ思い切りのしかかられた。
満月はゲラゲラ笑って楽しそうだが、本気でつぶれそうなオレにはいい迷惑。
怒鳴って背中から退かせば、渋々といった表情で離れた。
しかし、悪びれた様子はどこにもない。いつものことだからだ。


「てかさぁ、なんで毎回オレの背中に乗ってくるわけ?満月、他のヤツにはそんなことしないだろ」
「んー?だって光太の背中って独特の雰囲気をもって俺に『乗って!』囁いてくるんだもん。呼ばれたら乗るだろ」
「オレの背中はお前なぞ呼んでねぇ。重いんだよお前…乗られるくらいならまだあっちの方がマシだ」

そう言って教室の一角で格闘ごっこに興じるクラスメイトを指差す。
すると、満月は「えー」と溢してその顔に不満を露にした。

「やだー…光太のイメージにあわなーい…光太はあんなのよりちょんちょんつつきあって遊ぶタイプだろ?」
「お前の中のオレのイメージってなに?てか、それなら乗るなよ。潰すなよ。ちょんちょんしろよ」
「え…やだ光太君。俺と楽しくつつきあいイチャイチャカップルごっこしたいの?」
「お前の中の“ちょんちょん”は一体どんな遊びなんだよ」
「おいおいやめろよーこのー」「そっちこそつつかないでよもー(裏声)」「またやったなー」的な?」
「……キモい」
「小柄で可愛い光太に引き顔で言われると結構胸が痛いわー」
「小柄は余計だ!あと可愛いって何だよ!可愛いって何だよ!」
「……周知の事実」
「くたばれっ!!」

「「「楽しそうだなぁ」」」


案外気にしてるところを指摘され、怒りの一撃を食らわすべく逃げ出す満月を追いかける。
追いかけ合うのを更に囃し立てる者。騒がしさに制止をかける者。ただ見てるだけの者。
反応は様々だが賑やかなことに変わりはない。
しばらくすれば先生が来て一発渇を入れられて授業に意識が移る。
一年一組での遊びと勉強の繰り返しは、まさしくオレにとって日常の一部だ。

そして…家に帰ってからする行為も、間違いなくオレの日常の一部なのだ。





「うーん…今日はこんなもんかな?」

鏡の前で服のバランスを確認。試しにくるりと回れば翻るスカート。
女の子の服を着て、女の子の服を鑑賞する趣味の一時。

始まりこそ姉による着せ替え遊びの人形とされたからだが、昔から女の子の服を着せられても嫌ではなかったことを覚えている。
特に、女の子らしいふんわりとした服なんかは進んで着ていた記憶がある。
単純に面白かったんだ。今だってそう。

スカートがいい例で、足がスースーするのは気になるが、ズボンにはないたまに足へ布が当たるという感触がくすぐったくて面白い。
歩いたときの軽い動きも楽しいし、厚さやひだといったデザインでまた違う動きを見せてくれるのもいい。
それに、男性服と比べて装飾のバリエーションが多いのも魅力的だ。
リボンやフリルなんかは可愛いし、アレンジもしやすい。

可愛さを全面に出してるのもいいけど、個人的には自己主張控えめのワンピースとかにフリルが多くついてるのが好きなんだよな。



なんて持論を頭で繰り広げつつ、今日も女物の服を着込む。


「ああ…可愛いな…」


うっとりと見つめるのは鏡に写った自分…ではなく服の方。

見るだけなら別に着る必要はないと思われそうだが、着たときの立体感で服の雰囲気というのはまるっきり変わってくる。
袖や裾の動きも着ていなくては確認ができない。
あれやこれや動いて、色んな角度から衣装を観察する。
その際気を付けるべきは、自分の顔を見ないこと。
来ている自分の姿は好きでもなんでもないからな。
むしろ、服の雰囲気を壊しかねない。

それからも装飾品を一つひとつじっくり眺めたり、模様を吟味して楽しむ。




『ただいまー』


ふと、階下から帰ってきた姉の声が聞こえた。
もうそんな時間かと思いつつ、服の乱れを直す。姉に見せるためだ。
なぜなら、姉の詩穂里はオレの趣味を受け入れてくれている唯一の味方だから。

両親はオレの趣味にいい顔をしない。なので両親が帰ってくるまでの時間でひっそり楽しむしかない。
そこに姉にまで趣味を否定されていたら…そう考えると目の前が真っ暗になる。
きっと穏やかな顔で毎日を過ごせてはいなかっただろう。
姉が懐の広くて、理解ある人で本当に良かった。

それに協力的でもある。
今持っている服のほとんどが姉の協力で得たものだ。
流石に女の服を進んで買えるほどの度胸はない。
姉の助けがあるからこそ、今のコレクションは揃っている。

それに、姉と服の良し悪しについて語るのも楽しみのひとつだ。

故に新しく着た服はいつも姉にお披露目している。

今日もいつものように見せようと部屋を出…る前に姉から渡されたウィッグが目に入った。
女装をしたいわけではないが、やはりまんま男の姿と、少しでも女に似せた外見では服の映え方も違うだろう。
少し考えて、オレはウィッグを頭に装着する。

そのままパタパタと階段を降り、両手を広げて姉に服を見せる体制をとった。


「お帰り!ねぇねぇコレ新しいのなんだけど、どうか…な……」

この胸に飛び込んでこい!みたいなお披露目ポーズのまま固まる。
いや、正確にはその場に凍りついた。

そんな自分を玄関で姉が面白そうに見ている。
それだけならいい。
姉の背後にはお客様がいた。それが原因でオレは凍りついていた。


「ただいまヒカル。今日はね、お客様を連れてきたの。ね?」
「お邪魔します……えと、久しぶり、ヒカルさん」


姉の背後から顔を出し、ペコリと頭を下げるお客様。
マナーとしてこちらも挨拶を返すべき場面で、けれど、頭が混乱しているオレはお辞儀を返すことすらできなかった。


「何で……」


見覚えのあるライトブラウンの髪の少女。

先日出会った横井比奈が、三ヶ谷家の玄関に立っていた。

- 212 -


[*前] | [次#]
ページ:





戻る







ライン
メインに戻る