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おかしな二人



女の子というのは、着せ替え遊びが好きな子が多い。
オレの二つ離れた姉もそれに当てはまる。
ただし、姉の場合は普通とは違う。着せ替え遊びをするための“人形”が人と違ったのだ。


姉の“人形”は、オレ。


まだ幼い自分に「コレ着てよ!」と無理矢理姉の服を着せられた。しかもフリルの付いた服やスカートばかり。
だけど不思議と「いや」とは思わなかった。
幼いオレは腕に当たるフリルのふわふわした感触や、スカートのふんわりとした足の解放感を、むしろ楽しんでいた。

そんなものを知ったせいで、きっとオレは道を踏み外したんだと思う。






「・・・こんなもんかな」

鏡で簡単に確認する。早く話をしたくてウキウキとした気分で部屋を出た。


「あら?どうしたの光太。気合い入ってるわね?」


そう話しかけてきたのは姉の詩穂里。オレが話をしたかった目的の人物である。ただ「気合い入ってる」の意味は分からなくて首を傾げた。


「別に…?ところでさ、コレどう思う?」
「悪くはないけど…物足りないわね」
「物足り…?」

嫌な予感にじとっとした目で睨めば、姉は大袈裟にため息を吐いた。そして自室に引っ込み何かを漁る。


「分かってないわね光太・・・いいえ、ヒカル。その格好をしたんなら・・・ウィッグも付けなきゃダメじゃない!!」

バーンという効果音が合いそうな勢いで、ウィッグと言う別名カツラが目の前に差し出される。ふわふわと揺れるソレを見つめながらオレは姉に尋ねた。


「なあ姉ちゃん・・・コレってこんなに縦ロールしてたっけ?」
「フ、フ、フ、よく気づいたわねヒカル。このウィッグ!パワーアップの為にお姉ちゃんが自ら手塩をかけて巻き巻きしました!」
「うわー・・・無駄な労力いらねー・・・」


ちなみに“ヒカル”というのは姉からのオレの愛称だ。光太の光の字を読み替えて“ヒカル”。結構嫌いじゃない呼び名だ。
でも外で言われるとどっちが本名か分からなくなりそうなので遠慮してもらってる。
そんなオレにウィッグを半ば押し当てながら、姉が残念そうな顔をする。そんなものよりこっちの気持ちを気にしてくれないかな。
ハァと溜め息を溢しながら下を向くと、視界の端でふわりと布生地が動いた。


「いらねーとは何よぅ!折角可愛くしてあげたのに!」
「可愛くって・・・そんなくるくるとか、よほどの服にしか合わないじゃん・・・まず付けねぇよ」
「物は試しよヒカル…女の子の服に目覚めてしまった現在男子高生一年目」
「変な言い方すんなっ!!」


カッとなって叫べば「ヤダッ!赤い顔して可愛い!」なんて言われて余計恥ずかしくなる。自棄になって部屋に引っ込もうとしたら、背後から羽交い締めにされて、ウィッグ被された。
おまけに姉の部屋の姿見の前に連行される。


「ハーイ!これで詩穂里姉さんの可愛い可愛い妹ヒカルちゃんの出来上がりぃ♪」
「・・・オレ弟なんだけど」
「説得力ナッシング♪」


上機嫌で抱き締められながら、オレは姿見に映る自分の姿に目をやった。
縦ロールのウィッグ。控えめフリルの付いた洋服に、ジーンズ素材のスカート。


「うんうん、今日もよく似合ってますねぇ。お姉ちゃん嫉妬しちゃう♪」
「よく言うよ・・・」




三ヶ谷光太。15歳。男。
共働きの両親と姉の四人家族。
現在普通高校の一年生。


好きなことは、女の子の服を観賞し、着ること。





+++

「・・・何だよこの買い物の量は」


月曜日の夕方。
休日明けの学校ダルいなーなんて言いながら帰ってきた矢先、姉に一枚のメモを渡された。


『お姉ちゃん今忙しいから。ヒカルこれ買ってきて♪』


当然「嫌だ!」と言ったが、お使いにしては多めのお金を渡され「余りで好きなもの買ってもいいから♪」と言われ、誘惑に負けた。
しかし、渡されたメモを見て仰天。お菓子類はともかく、何故か下着まで書き添えられていて「やっぱりムリ!」と断った。だが、「ヒカルの可愛い顔と格好ならバレやしないって♪」と軽く返された。
現在、そんなオレの姿は・・・ウィッグ(縦ロールでない)に姉の制服である。
別に姉に変装してるわけじゃない。姉が通ってるのは女子高校で、一通りの店はその近くにある。
見慣れた制服なら先入観で“男”とバレる心配も軽減するだろうという作戦だ。
別に姉の学校の制服は自分の学ランに比べて材質がよくて動きやすい上に可愛いからとか、着てみたかったからとかそんなんじゃない。


「とりあえず買うのに楽なものから潰してくかな・・・」


溜め息一つ、オレは近場のショッピングセンターに足を向けた。





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